揺らぐ「世田谷ブランド」。22年問題による地価下落から学級崩壊まで……

 世田谷区といえばセレブで優雅なイメージを持つ人が多いだろう。しかし、それは過去のものになるかもしれない。同区では今、さまざまな難題が立ちはだかっているからだ。土地価格の下落から医療問題まで問題点をリポートする!

’15年に開業した二子玉川ライズ。高級感漂う都内屈指の商業施設で、多くの人で賑わう 撮影/取材班

生産緑地問題に加え、犯罪者の流入も進み、小学校では学級崩壊!

 不動産相場が右肩上がりの上昇を続けている東京23区に、数年内に大量の住宅用地が新たに供給される。供給源は、農地以外への転用や売却を制限される代わりに固定資産評価額が農地並みに低く抑えられてきた「生産緑地」だ。  生産緑地の指定期間は30年だが、その総面積は23区で東京ドーム91個分に相当するといわれる。この生産緑地の約8割が’22年に期限を迎えるのだ。以降は土地の売買が自由になる一方、住宅地としての評価となり、固定資産税や相続税などのコストも上昇するため、まとまった土地が売りに出されると予測されている。当然、不動産相場への影響が懸念されているのだが、世田谷区は練馬区に次いで生産緑地の面積が広いのだ。世田谷区内の不動産業者はこう話す。 「ウチでも2年前から、生産緑地の所有者から売りたいという相談を受けることが多くなった。世田谷区は生産緑地の総面積が広い区の中で、土地の相場が一番高い。となると、相続税や固定資産税も高くなるわけで、指定解除されたら即売却したいと考える人が多い。『’22年問題』の影響を最も受けるのは世田谷区かもしれません。特に地価が下落しそうなのは環八の外側で、鉄道駅からアクセスの悪い喜多見や千歳台、岡本あたりが危ないと思います」  東京都都市整備局の統計(’17年度)によれば、練馬区の住宅地の地価公示価格の平均は1㎡当たり36万9400円なのに対し、世田谷区は58万9300円。一方で、生産緑地の評価額は23区では1㎡当たり一律220円なので、生産緑地指定解除のインパクトは世田谷区でより大きいといえるかもしれない。 <生産緑地の面積> 1 練馬区 185万㎡ 2 世田谷区 91万㎡ 3 江戸川区 37万㎡ ※「東京の土地2017」(都市整備局)より

5年、10年で見れば生産緑地周辺の不動産市場にとって下振れ圧力に

 住宅ジャーナリストの榊淳司氏もこう指摘する。 「さまざまな暫定措置が用意されるでしょうし、いきなりドカンと影響が出ることはないでしょうが、5年、10年で見れば生産緑地周辺の不動産市場にとって下振れ圧力になることは間違いない」  ただ榊氏によれば、同区の不動産市場は生産緑地問題以前にすでに黄信号がともっているという。 「’14年のいわゆる『黒田バズーカ2(追加金融緩和)』のあと、都内城南エリアで最初に不動産価格が上がったのが世田谷区だった。以来、新築マンションの売り出し価格の平均は一時坪単価400万円まで上昇しました。平均所得の高い区民の住み替え需要を当てにした価格設定でしたが、文京区が420万円程度であることを考えても明らかに高すぎた。結果、同区では新築マンションの売れ残りが常態化していったのです」  不動産検索サイト「スーモ」で区内で販売中の新築マンションを調べたところ23棟がヒットしたが、うち17棟が完成在庫=売れ残りだった(7月18日時点)。

写真/AFP=時事

 一方、不動産仲介のオフィスデータサービス取締役の春名貴清氏は、ライフスタイルの変化も世田谷ブランドを失墜させる要因になっていると指摘する。 「同区の西部地域では徒歩20分以内に鉄道の駅がないエリアがかなりあります。昔はそうした場所でも『閑静な住宅街』ということで買い手はつきました。しかし、『職住近接』が基本の最近の30~40代には魅力的とは言えなくなってきている。田園都市線沿いの区内の単身用マンションは、住居手当が厚いIT企業の若手社員の需要が高いのですが、浮き沈みの激しい業界なので、景気頼みというところもあります」
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いかがわしさとは無縁なはずの世田谷区に増える裏風俗
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