熱中症の発生は、住宅内がいちばん多い。断熱性能の低い軽量鉄骨住宅に潜む危険性

鉄は木材より700倍熱を伝えやすい

熱伝導率

鉄の熱伝導率は非常に高い

 岩山氏は「そもそも鉄は熱伝導率が高く、住宅で採用するような素材ではありません」と話す。それはどういうことなのか。住宅の主要構造に使われる建材(木材、コンクリート、鉄)の「熱伝導率」について比較してみよう。  熱伝導とは、熱が物中に伝わって高温部から低温部に移動する現象のことで、熱の伝わりやすさを表す物質定数のひとつだ。これを比較すると、木(0.14~0.18)<コンクリート(1.0)<鉄(83.5)となり、鉄は木材より約700倍も熱を伝えやすい。 「どこかのメーカーが『外張り断熱』といってコマーシャルをしていました。しかし、屋根は外張り断熱ではありませんから、屋根下地の鉄骨が熱せられて壁下地の鉄骨に伝わります。それが室内に輻射熱として影響するので、空調効率は余計に悪化するのです。  軽量鉄骨住宅では、夏になるとエアコンをつけていても1階リビングの温度が39℃から下がらないことがよくあります。2階に行くと40℃を軽く超えていることは容易に想像できます。  このような状態の住宅は冷暖房もほとんど効果がなく、光熱費もかさむばかりでしょう。屋内での熱中症も心配しなければなりません。おそらく冬になると暖房しているのに震えてしまうくらい寒さになっているはずです」(岩山氏)
天井部分

2階吹き抜け天井部分。サーモビジョン映像では36℃を超える高温となっている。断熱性能が低下しているのがよくわかる

 本来、熱伝導率の高い鉄骨を利用した構造では、室内側に面する鉄骨部分にはすべての面を覆うように断熱材を張らなければならない。さもなければ、室内に面する壁天井には、連続した断熱層と防湿層を設ける必要がある。 「鉄骨の構造躯体そのものが金属で熱伝導率が高いうえに、断熱も有効に働いていないのです。軽量鉄骨住宅は、骨組みや筋交いなどが鉄でできています。すき間なく断熱材を入れたとしても、鉄のむき出しの部分からヒートブリッジ(外壁と内壁の間にある柱などが熱を伝える現象)が起こります。  鉄骨部分には断熱対策ができないことで、暑さをそのまま内部に伝えてしまう。断熱性能が悪く結露が発生しやすくなるという、不健康な住宅を生み出してしまいます。そのような意味からも、鉄骨の省エネ住宅は不可能です」(岩山氏)

隙間だけの「プレハブ工法」が、断熱性能を低下させる

床下部分

床下。鋼製大引き部分は断熱材の施工がない。鋼製大引きは熱伝導率が高く、ヒートブリッジになる可能性が高い

 また、軽量鉄骨住宅が「プレハブ工法」であることが、さらに断熱性能を低下させているという。 「ある大手メーカーはパネルとパネル、パネルと窓の接合部分に15ミリメートルほどの隙間をあえて設けて組み立てています。その際、隙間に断熱材は充填しないため、窓の近くに行くと隙間風が入ってきます。軽量鉄骨住宅は隙間(クリアランス)を設けることで、組み立て作業をスムーズにするというシステムになっています」(岩山氏)  壁の中には当然、空気がある。寝ている時に布団の中に気流があったらどうだろう。しかも外気が入って来ているとすれば、エアコンをつけていても効き目がなくなるのは極めて当然のことだ。 「断熱材をいくら入れても、隙間だらけの住宅では家の中に外気が入り込んで、断熱の効果がさっぱり上がりません。隙間風によって家の中の空気と外気が絶えず入れ替わるので、暖めても冷やしてもエネルギーロスが大きくなります。  隙間があると、床下の湿気を含んだ空気が断熱材のない部分で結露を起こします。また室内の水蒸気が壁の中にも入り、断熱材の内部でも結露を起こします」(同)  そうなると、副資材として使用されている木材を腐らせてしまうことにもなりかねない。結露は目に見えない場所で起こり、気がついた時には相当深刻な状態になっているケースが多いのだ。
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内部結露で木材は腐り、カビやダニが繁殖
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