手錠腰縄で病院内を歩かされたバングラデシュ難民が仮放免、しかし苦難は続く

1年3か月の収容の後、突然に仮放免の許可

解放されたばかりのマールーフさん。歩けない

解放されたばかりのマールーフさん。膝の状態が悪化して歩くことができず、車いすを使用している

 バングラデシュで怪我をしたマールーフさんの足は、良くなるどころか悪化する一方だった。ついには立てなくなって車いすを使用するようになっていた。  殴られた箇所の痛みは今もひどく、夜も眠れない。まるで地震が起きているような震えに襲われる。息をするたびに左胸の痛みが走る。さらに、収容されてから目がどんどん悪くなった。翼状片(白目の組織が 黒目の方へ伸びてくる病気)と診断され、常に目が充血して視力がだんだんと奪われていった。血圧は下が140、上が220と、いつ倒れてもおかしくはない状態だ。  牛久入管に移送されてから2か月、2回の仮放免手続きが却下されてマールーフさんはしばらくそのままにしていた。4月ごろ、職員に早く次の仮放免手続きを出すよう催促され、ゴールデンウィーク前に書類を提出した。そして5月24日、およそ3週間という速さで仮放免の許可が出て、解放されることとなった。  牛久入管に移送されてから7か月目のできごとだった。東京入管と合わせると1年3か月で解放されたことになる。十分長い期間ではあるが、現在の収容期間としてはとても早いほうで、他の被収容者やその家族からは驚かれている。

膝は手術しないと治らないが、保険もない

高輪病院にて

解放後、通訳を通じて英語でインタビューに答えてくれたマールーフさん

 敬虔なムスリム(イスラム教徒)であるマールーフさんは、のちに写真の件を静かに語った。 「最初は驚いたけど、俺も男だからうろたえたりはしなかったよ。おかげで色々な人に出会い支援してもらった。これは神様が引き合わせてくれたものだったんだ」  そう語っているうちに、声のトーンが落ちてきた。 「ただ日本に来たばかりに……私、かわいそう。歩けない、働けない。解放されてから病院に行ったけど、膝は手術をしないと治らない。保険がないから20万円以上かかってしまう……」  マールーフさんは現在、同じバングラデシュ人の友達のアパートでお世話になっている状態。何もできない状態から早く脱却したいと願う彼の苦難はこれからかもしれない。  難民認定さえされれば、少しは良い状態になるだろう。しかし、展望はまだまだ厳しい。早く自由をつかんで、安心した生活を送ってもらいたい。 <文/織田朝日>
おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)など。入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)を2月28日に上梓。
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