皆さんは「緊急避妊薬」、「アフターピル」をご存知だろうか。緊急避妊薬とは、避妊に失敗した場合や望まない性行為で避妊ができなかった場合などに、なるべく早く飲むことで、妊娠を高い確率で防ぐことのできる薬のことだ。遅くとも72時間以内に飲むことが望ましいとされている。
現在、日本で緊急避妊薬を入手するためには病院を受診し、処方箋をもらう必要がある。保険適用外のため、費用は完全自己負担。最近ジェネリックが発売されたため、1万円前後で提供されるケースも増えたが、そうでなければ1.5万円前後かかる。
しかし、諸外国を見ると、80を超える国々で薬局販売がされており、値段も数百円から5000円程度と、日本と比べて格段に安い。また、病院等にいけば国の補助でより低価格で入手できる国も多く、特に若者には無料・安価にしている国が多い。学校に配置されている場合もある。これらも全て、時間が経つほど避妊の成功率が低下し、タイムリミットは72時間という緊急避妊薬の特性ゆえだ。
そんな中現在、現在厚労省では、緊急避妊薬に関して、ビデオ通話での診察、近くの薬局などでの処方等を可能にする「オンライン診療」を認めるかどうかが議論されている。望まない妊娠を防ぐ最後の砦である緊急避妊薬。様々な議論が交わされる中、緊急避妊薬をめぐる実態はどうなっているのか。
今回、筆者が率いる
「#なんでないのプロジェクト」では、インターネット上で大規模な調査を行った。そこから浮き彫りになったのは、緊急避妊へのアクセスを阻む壁の高さと、アクセス改善を求める切実な声だった。
調査の実施期間は5月4日から15日の12日間。主にSNSを利用し拡散を行った。従って、サンプルの偏りは否めない。また、必須項目はなく、答えるか否かは全て個人の自由であった点も断っておきたい。
とはいえ、たった12日の調査で総勢1566人の方の協力を得られたのは想像以上であった。うち、女性が1430名、10代・20代が約53%で半数以上、30代も含めれば約80%となり、妊娠適齢期にある女性の回答が多かった。
以上が調査の概要であるが、女性と回答した1430人のうち、緊急避妊薬の使用経験がある人は約3割の492人。また、使用回数をみると1回と答える人が最も多く約6割、2~4回と答えた人も含めれば95%にのぼっている。
なぜ緊急避妊薬を必要としたのか。その理由を尋ねると、コンドームの失敗が約8割で最多だった。コンドームを使っていても、破れてしまったり、外れてしまったりして避妊に失敗している人が多いことがわかる。その次に多いのが、膣外射精による妊娠不安だ。
日本ではコンドームによる避妊が圧倒的に多く、次に多いのが避妊としては不適切な膣外射精。コンドームは性感染症予防のために使用する必要があるが、どちらも避妊法としては失敗率がかなり高めの方法だ。避妊法として、より確実性の高い低用量ピル服用者はたった4%だ。従って、この結果には納得できる。一方、性的被害を受けたことによる服用も16.5%と少なくない。
緊急避妊薬における議論でよく聞かれるのが、「性的被害を受けた人にはハードルが下がるべきだが、それ以外のひとは……」という論調だ。きっと、緊急避妊薬を使う人は、避妊せず無責任に遊んでいる人か、性暴力被害者のどちらかだというイメージがあるのかもしれない。
しかし現実はそう単純ではない。日本は他国と比べても、コンドーム単独の避妊に圧倒的に依存した国である。だからこそ、きちんと避妊をしたつもりでも、緊急避妊が必要になることが往々にしてあり、緊急避妊へのアクセスは確実に守られねばならないのだ。
もちろん避妊せずに性交したからといって救われなくていい訳ではもちろんない。医療が人を差別することはあってはならないからだ。