※写真はイメージです H.Kuwagaki / PIXTA(ピクスタ)
史上最長のゴールデンウィークが明け、日本のあちこちで若者が自殺したというニュースが駆けめぐりました。
これら自殺の原因はいじめであったり、学力不振、学校の雰囲気になじめなかったなど、様々な理由が想像できますが、やはり長期間の休暇が明けて、いざ学校へ行くとなると憂鬱な気持ちになってしまうのでしょう。自殺まではいかなくても、不登校も増えます。
児童や生徒が不登校になった時、もし自殺するリスクがあるというなら、無理に学校へ行かせるべきではありません。また、学校生活に楽しみを見出せなくなった児童・生徒は、自分よりも劣っている者を見つけて、いじめる側に回ることもある。そんな状態に陥るくらいなら、学校なんか行かない方がいい。だから、学校なんか行かなくてもいいじゃないかと不登校を支持する意見も多いと思います。
しかし、それはあくまで目先の問題を先送りにするだけの対症療法であって、自殺リスクを回避する一方で、学校に通わないということは、
学ぶ機会を失うのだから、登校している生徒に比べ「学力の低下」という、別のリスクを伴うことになります。
そんな中、沖縄県の小学校に在籍する、ゆたぼんと呼ばれる10歳の小学5年生が、学校に行くことを拒否し、Youtuberとして生きていくことを宣言した動画が話題になっています。
義務教育中の、しかもまだ10歳の小学生が、学校での学びを拒否し、動画を配信するという事態に、新聞やテレビなど、マスコミが取り上げて、子どもの自立を促すとか、新しい子育て法とか、既存の学校教育に捕らわれない生き方として称賛される一方、ネットでは子どもを甘やかしすぎとか、父親が子どもをだしにして商売をしている、10歳の子どもが自らの生き方を決定するのは異常など、賛否が問われています。
この状況について、マスメディアやネットの情報だけを収集して、私が是非を述べるのはどうかとは思いますが、こうした不登校問題の考え方を示しておきたいと思います。
日本国憲法
“第26条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。”
学校教育法
”第17条 保護者は、子の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満12歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子が、満12歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは、満15歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間においてこれらの課程を修了したときは、その修了した日の属する学年の終わり)までとする。
② 保護者は、子が小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満15歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。
③ 前二項の義務の履行の督促その他これらの義務の履行に関し必要な事項は、政令で定める。
第144条 第17条第1項又は第2項の義務の履行の督促を受け、なお履行しない者は、10万円以下の罰金に処する。”
これがいわゆる「義務教育」の根拠条文です。
保護者は、子どもを学校教育法上の小学校・中学校に就学させる義務を負っていて、それに従わなければ督促の後に10万円以下の罰金という罰則規定まで設けてあるのです。つまり、条文を杓子定規に適用すれば、親は子どもが6歳になったところで、学校教育法上の小学校へ就学させる義務があり、親の教育方針でフリースクールに行かせるとか、インターナショナルスクールへ進学させるといったことは許されません。ただし、それは建前で、
病弱や発育不完全やその他の事情で就学できない場合については、就学義務を免除される旨の条文もあります。
学校教育法
”第18条 前条第一項又は第二項の規定によつて、保護者が就学させなければならない子(以下それぞれ「学齢児童」又は「学齢生徒」という。)で、病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のため、就学困難と認められる者の保護者に対しては、市町村の教育委員会は、文部科学大臣の定めるところにより、同条第一項又は第二項の義務を猶予又は免除することができる。”
つまり、ただ勉強したくないという不登校も、フリースクール等の代替教育施設を選ぶことも、積極的に外国語教育を行うためのインターナショナルスクール等のいずれを選んだとしても、子どもの就学義務を果たしていることにはならないものの、「既存の学校教育が合わない」とか、「もっと適切な教育を受けさせたい」など、何らかの理屈をつけさえすれば、保護者は学校教育法上の義務を果たさなくても構わないという状況です。だから、
児童虐待が疑われる場合を除き、まず刑事罰の対象にはなりません。
不登校から起業して立派な経営者になった人もいれば、最高峰の大学を出ても犯罪者になった人たちもいるように、教育を受けようがうけまいが、
親が納得し、子どもも望むのであれば、敢えて普通の教育を受けない選択も批判すべきではありません。
しかし、日本の公教育は、
子どもを学ぶ環境に置き、学習指導要領に従った体系的な授業を受けることができ、他人とのコミニュケーションを図ることで非認知能力(忍耐力・社会性・感情コントロール)を育むことができます。諸外国と比べて優れている訳でもなければ、きめの細かい教育が行われている訳ではありませんが、
平日の大半をこうした環境に置くことで、社会に適合した人格形成を行っていくことができるという利点があります。また、我が国の公立の小中学校においては、授業料は無償とされているのですから、コストパフォーマンスの点から見ても、通わせるべき教育施設であると思っています。
でも、就学することが困難というのであれば、不登校もやむを得ません。