大阪市におけるラブホ街ごとの駐車場台数
この表は、ラブホ街ごとの駐車場台数を示している。必ずしも軒数に比例しているわけではなく、むしろ《十三》や《谷町九丁目》など、規模から言えば二番手クラスのラブホ街のほうが合計台数は多い。
この2つは平均台数においても目立っており、全体平均の二倍近い値を示している。先述したとおり、十三には部屋数よりも駐車場台数が多いホテルさえ複数ある。ただし、平均で言うならば、高速道路のインターチェンジ近くにある《八尾南》のほうが高い。これらは、自動車利用を中心としたラブホ街だといえる。
ラブホテルの中には、駐車場がないものもある。A列はそのようなラブホテルの数を示している。大阪市でも最も繁華な《難波》や《梅田》には、専用の駐車場を持たないラブホテルも多い。これは、地価の高さが主な要因だろう。このようなラブホテルは、近隣の駐車場と提携し、ラブホテルの利用者には駐車料金を割引するなどのサービスを行っていることも多い。
駐車場がないラブホテルを除いて駐車場台数の平均を出すと、B列のようになる。一部のラブホ街では、駐車場がないラブホテルを除かずに算出した平均と大きく差が開いており、特に《難波》は差が激しい。これはすなわち、《難波》では駐車場を持たないラブホテルと、多数の駐車場を持つラブホテルが併存しているということである。《難波》ほどではないものの、《梅田》にもこのような二極化の構造が見られる。
都心立地でありながら大きな駐車場を持つラブホテルは、規模が大きく部屋数に余裕があることが多い。そのため、都心のラブホ街で空室を探したいときには「駐車場」の有無に注目してみるのもよいであろう。
ラブホ街の「新分類」――立地エリアの特性は「外観」にも影響する!
さて、ここまで部屋数と駐車場からラブホ街の特性を見てきた。これらを総合的に考慮してラブホ街を分類してみると、次の図のようになる。
大阪市におけるラブホ街の類型
ミナミ・キタという大阪の二大歓楽街に立地する「①大規模複合型」、自動車での利用を主とし、エリア内のほとんどがラブホテルとなるような「②ラブホテル特化型」、繁華街に取り込まれるようにして数軒のラブホテルが点在する「③繁華街付属型」、そして、高速道路沿いにあり、ほとんどが自動車利用となる「④郊外型」。この4つが、大阪市のラブホテル街の主要な類型といえるだろう。
一般的には、④の郊外型に対して、①~③は「都市型」として一括りにされることが多い。しかし、規模や自動車利用の比率を考えると、都市型の中にもさまざまな特性を持ったラブホテルがあることが分かる。
初めに挙げた二つのラブホテルの違いも、この類型を考えると分かりやすい。自動車利用が多く、ラブホテルそのものを目的として訪れる人が多い《谷町九丁目》(冒頭の写真左側)では、遠くからでも分かりやすい目立つ外観が求められる。一方、それほど大きな規模ではなく、徒歩で訪れる人が多い《京橋》(右側)では、歩行者にさえその存在を知らせることができれば、そこまで派手な外装は必要とならない。
このように、各エリアごとの特性は「ラブホテルの外観」にも影響を与えているのだ。
「規模」「立地」に「部屋数」「駐車場」…ラブホ街を何から見る?
今回の記事を通して、一口に「ラブホ街」と言っても場所によってさまざまな特性があることが分かっていただけたかと思う。
今回は従来の「規模」や「立地」に加えて「部屋数」と「駐車場」からもラブホ街を分類したが、ラブホ街はこれ以外にもさまざまな観点から分析することができる。たとえば料金、店舗名、歴史的背景などである。そのほか、用途地域や地価などの都市構造との関連も重要だろう。
これらについては、また次回以降に少しずつ解き明かしていきたい。
[参考文献]
大矢正樹(2009)「ラブホテル街形成史への提案∼坂内論文への応答∼」土木計画学研究・講演集39, CD-ROM.
◆短期集中連載ー「ラブホテルの地理学」
<取材・文・撮影/重永瞬(都市商業研究所) Twitter ID;
@Naga_Kyoto>
しげながしゅん●京都大学文学部地理学専修在籍。京都大学地理学研究会第7代会長。京都・観光文化検定試験1級を史上最年少(20歳)で合格。著書に『大阪市天王寺区生玉町におけるラブホテル街の形成と変容 歴史編』 (志学社論文叢書)
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「
@toshouken」
しげながしゅん●Twitter ID;
@Naga_Kyoto>。京都大学文学部地理学専修在籍。京都大学地理学研究会第7代会長。京都・観光文化検定試験1級を史上最年少(20歳)で合格。フジテレビのクイズ番組『99人の壁』鉄道旅SP出演でも話題になった。著書に『
大阪市天王寺区生玉町におけるラブホテル街の形成と変容 歴史編』 (志学社論文叢書)
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「
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