ここまでは、保険会社の担当者(もっというならその上司も含め)の処理がまずかっただけだった。だが、その後ズルズルと沼地に引きずり込まれるような展開が待っていた。
後日送られてきた同意書は英文で、和訳が付いていなかった。「普通、こちらのサインを必要とする類の文書は和訳をつけるものではないですか?」と尋ねたところ、悪びれる様子もなく「あくまで参考」という形で後日和訳ドキュメントを送ってきた。
本来こういう重要文書は翻訳証明をつけるべきであり、「あくまで参考」などということはあってはならない。ただ、いちいち指摘しても話が進みそうになかったので、ドキュメントをしっかり確認した上で、「サイン(ローマ字)」と書いてあった場所にサインをして送り返した。
ところが、だ。
それから1週間以上経って、「病院に確認したら、サインが違うとのことで情報共有を拒否されました」という連絡がくる。アルファベット圏での盗用などを避けるため、筆者サインはパスポートも含めすべて漢字に統一している。違うと言われるのも当然だ。
わざわざ「ローマ字でサイン」と指定してきたからには、保険会社の方で手続き上の理由があるのかと思ったのだが、実は単なる保険会社の初歩的なミスだったのだ。おかげで、さらに余計な手間をかけさせられることになった。
いつまで経っても話が進まないので、別途その保険会社の「お客様相談室」ウェブサイトにある苦情処理フォームから苦情を入れた。ところが、ここにも別の罠が待っていたのである。
点滴が終了した直後、ホッとして自分の手の状態を撮影。帰国後のほうが大変なことになるとは、この時予想だにしていなかった
その部署からの返事はまったくなく、代わりにさんざん保険金の支払いを渋ってきた担当者本人から返答がきたのだ。その内容からわかったのは、「お客様相談室には伝えたが担当には伝えていない情報」がそのまま担当に流されていたという衝撃の事実である。しかも、こちらが知りたい重要な部分、つまり担当が何を疑い、何を審査しているのかに関する答えはまったくなかった。
これは明らかに苦情処理のフローがおかしい。担当に問題がある場合、権限を持った社内の別部署がチェックすることで健全性が保たれるはずなのに、その担当本人に、お客様相談室に寄せられた内容をそのまま横流しし、あろうことかその担当から回答させるなど、あってはならないことである。
たまたま、知人が内部事情に詳しいということを知り、状況を探ってもらった。すると、驚きの事実が判明した。なんと筆者の苦情が「どうも握りつぶされているようだ」というのだ。
その会社には、苦情処理を共有するシステムがある。お客様相談室だろうが担当だろうが、およそ苦情やクレームの類はすべてそのシステムに入力することになっているという。だが、そのシステムに筆者のケースが入っていなかったことが、独自調査の結果判明したのである。