H.I.S.のオフィス前で、パーム油発電の見直しを求める環境NGOメンバーら。今年3月、筆者撮影
今夏に向けて、SDGs(持続可能な開発目標)、ESG(環境・社会・ガバナンス)が国策や企業活動で大いに注目を集めそうだ。今年6月に大阪で開催される20か国・地域(G20)首脳会議でも、温暖化対策などの環境問題が重要議題とされるからだ。だが、日本では、「環境に優しい」を謳い文句にしながら、実はエコ的には最悪という「勘違いSDGs/ESG」ビジネスも跋扈している。
東南アジアの熱帯雨林を切り開き、オランウータンなど貴重な野生生物を絶滅の危機に追いやっている―食品や洗剤に使われるパーム油が環境に悪いことは、ある程度、エコロジーに関心がある人々にとっては、もはや常識に近い。
環境破壊だけでなく、現地での最低賃金以下の労働や児童労働、先住民族の生活の場を奪う等、人権という観点からもパーム油を生産するプランテーションは大きな問題を引き起こしている。
ところが、そのパーム油を「エコなエネルギー」としてバイオマス発電に利用、しかも固定化価格買取制度(FIT)で一般の人々の支払う電気料金から高値で買取させる、という酷すぎる案件が進行中だ。
旅行会社大手のH.I.S.は現在、宮城県角田市にバイオマス発電所「H.I.S.角田バイオマスパーク」を建設中で、この発電所はパーム油を燃料とする。これに対して国内の環境NGOや学識経験者、専門家らが一斉に反発。
H.I.S.の澤田秀雄社長に申し入れを行った。
申入れ者代表で、環境社会学者の長谷川公一教授(東北大学大学院)は、パーム油による発電が、いかに環境負荷が高いかを強調する。
「森林破壊による火災、泥炭地開発による温室効果ガスの排出など、パーム油による発電は地球温暖化対策としては不適切です。欧州委員会の調査によれば、化石燃料の中で最もCO2排出係数の高い石炭火力発電よりも、2倍以上ものCO2をパーム油発電は排出します。そのため、米国ではパーム油を燃料とすることを認めておらず、欧州でも利用を制限する動きが強まっているのです」(長谷川教授)
世界最大のパーム油生産国であるインドネシアでは、森林破壊や泥炭層開発などにより、世界第3位の温室効果ガス大量排出国となっている。同国からパーム油や紙パルプ、木材を輸入している日本の責任も決して小さくはない。長谷川教授は「日本を代表するような旅行会社が、熱帯林を破壊するような事業に加担してはいけません」と訴える。
高まる批判に対し、H.I.S.側は「環境に配慮したRSPO認証のパーム油を使用する」と弁明する。
「以前のパーム油産業は、環境や労働・土地といった点で問題が多かった業界だったと思いますが、その問題を解決するためにできたのがRSPO認証基準です。
真に地球環境に取り組むのであれば、パーム産業に自国の未来を描く途上国の取り組みや、パーム油の食品以外の化学品向けなどの利用拡大を支援することが、地球全体の環境保護や経済発展には大事ではないかと考えております」(H.I.S広報)
だが、国際環境NGO「FoE Japan」の満田夏花・事務局長は「RSPO認証のパーム油だからバイオ燃料に使っても良いというわけではありません」と指摘する。
「パーム油を発電のために大量に燃やすことにより、需要が爆発的に拡大することが問題です。インドネシアやマレーシアのプランテーション開発を促し、結果的に森林破壊を促進することになります」(満田さん)
実際、「H.I.S.角田バイオマスパーク」は、年間7万トンという膨大な量のパーム油を燃料とする。
「これは日本の食用などの従来のパーム油の消費量の1割に相当する量です。これに対し、RSPO認証のパーム油は日本では市場流通のわずか数パーセントにすぎません。H.I.S.は、どうやって十分な量のRSPO認証パーム油を確保するのでしょうか?」(満田さん)
いかにRSPO認証パーム油を確保するのか。筆者は、H.I.S.に問い合わせたが、この点についての具体的な回答はなかった。