幸福実現党は票数こそ少なくても、ギリギリ当選できる程度の票を集めることはできた。それはなぜだろう。「愛国」を標榜し中国や韓国に対する歴史修正を主張し共産主義を否定する極右政党であり、それでいて天皇制を事実上否定する憲法の制定を主張し、さらに日本の核武装や、宇宙人やUFOの存在を前提とした政策まで主張する宗教政党が、地方の有権者に受け入れられたということなのか。
常識的に考えれば、政策や主張が広く知れ渡れば右派左派を問わず票が逃げていきそうだ。
理由の一つを示すヒントが、幸福の科学や関係者が「勝利」に酔いしれてネット上に公開した写真にあった。以下はいずれも釈党首のTwitterに掲載されたものだ。
釈量子氏のTwitterより
新庄市議選(定数18、候補者20)で当選した山科春美氏(575.058票で17位当選)の写真には、支持者に向かってマイクを握る山科氏のバックに写る為書き。文字の一部が隠れて見えないものもあるが、いくつか政治家の名前が書かれたものが確認できる。
「衆議院議員 加藤」
「新庄市長 山尾順紀」
「自民党山形県連幹事長 山形県議会議員 坂本貴美雄」
「参議院議員 大沼みずほ」
「
衆議院議員 加藤」は、新庄市を含む山形3区選出の
自民党議員・加藤鮎子氏。「
新庄市長 山尾順紀」は、
2015年に自民・公明の推薦で3選を果たし今年4選に向けて出馬表明中の現職町長。「
坂本貴美雄」は為書きにある通り。
「参議院議員 大沼みずほ」も自民党。山科氏がまるで自民党系候補のように見えてしまう写真だ。
釈量子氏のTwitterより
古河市議選(定数24、候補者27)で当選した古川一美氏(932票で24位)の写真にある為書きには「衆議院議員 永岡桂」「茨城県議会議員 高橋カツノリ」の文字が見える。前者は茨城7区選出の自民党議員・永岡桂子氏。後者も自民党の茨城県議会議員である。
釈量子氏のTwitterより
三芳町議選(定数15、候補者16)で当選した細田三恵氏(423票で14位)の写真には「
三芳町長 林伊佐雄」の為書き。
18年に自・公推薦で当選した町長だ。
地方における自民党政治家との連携。彼らがたとえば幸福実現党への応援演説までしなくとも、幸福実現党が地域での活動において自民党系の人脈に食い込んだり便乗したりしていることは想像に難くない。
ようやく1つの議会に1人の議員を誕生させただけでは、単独会派を結成する力はない。しかし石垣市議会では、今回の統一地方選ではないが幸福実現党推薦で当選した友寄永三市議が自民党と統一会派を組んでいる。
幸福実現党が「保守のアクセル」であり、自民党等の保守系人脈が「幸福実現党のアクセル」なのだろう。
地方の人口減少(つまり有権者数や投票者数の減少)、立候補者の「なり手不足」による当選倍率の低下。その結果、従来であれば当選しにくい政党の候補者が、組織や人脈によりほんの少し票を上積みするだけで当選できてしまう「セキュリティーホール」が生まれている。幸福実現党が自民党を中心とする地方の保守人脈との連携によって、それを突いた形だ。
幸福実現党が強くなったのではく、地方に「嫌な風」が吹いているということだ。この先もさらに強まる可能性すらある、嫌な風だ。
今回の統一地方選では、「NHKから国民を守る党」が47人の候補を擁立し26人が当選した。これに対して、幸福実現党は無投票当選を含めて103人中19人の当選。N国は東京23区で17人の当選者を出したが、幸福実現党は全敗している。
以下、「幸福 vs N国」が直接対決した18の選挙をまとめた表である。
当落で比較すれば、幸福実現党の1勝11敗6分。得票数で見れば1勝17敗。
幸福実現党の完敗、N国の完勝だ。10年間も幸福実現党を見つめてきた筆者としては、嫉妬すら覚える。
N国の選挙結果についての分析は他に任せるが、少なくとも幸福実現党との比較で言えば、N国は首都圏で強く得票数は段違いに多かった。幸福実現党の「小規模自治体」での「自民党等保守人脈との提携」による「ギリギリ当選」とは、少々構図が異なるのかもしれない。
<取材・文・写真/藤倉善郎(
やや日刊カルト新聞総裁)・Twitter ID:
@daily_cult3>
ふじくらよしろう●1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『
「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
ふじくらよしろう●
やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:
@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『
「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)