極論主義とネット世論操作が選挙のたびに民主主義を壊す。このままでは5年以内に世界の民主主義は危機を迎える

岐路に立たされる「民主主義」

 かつて民主主義はクーデターや革命で殺されたが、今は選挙で殺されるようになった(*参照:『死に瀕する民主主義。一人ひとりが民主主義を守る自覚を ~『民主主義の死に方―二極化する政治が招く独裁への道―』書評)。  世界の選挙に関するニュースを見ると多くの国で極論政党(極論を掲げる政党、右派、左派あるいは思想の内容を問わない)あるいは極論政治家の台頭が目につく。日本でなじみがあるのはアメリカのトランプ大統領だが、それ以外にもたくさんある。  たとえばイタリアは2018年の選挙で中道右派連合が政権を取った。その中心になっている政党、同盟(かつての北部同盟)は反移民運動やEUへの批判など過激な主張で知られている。スペインではカタルーニャ独立分離騒動が激化し住民投票では独立が多数を占めた。ドイツやフランスでも反移民、反EUを掲げる極論政党(ドイツのための選択(Afd)、国民連合)が勢力を増している。フィリピンでは2016年の選挙で選ばれた大統領が、言論封殺、超法規的措置、ネット世論操作を進め、独裁国家のようになった。  これ以外にもカンボジア、ベネズエラ、メキシコ、ブラジルなどのように、実態は民主主義とは言いにくいが、その指導者は民主的な選挙によって選ばれている国は枚挙にいとまがない。ロシアのプーチン大統領も選挙によって選ばれている。 前回紹介したラテンアメリカの状況はこうした世界的なトレンドの中のひとつだ。  極論主義で生まれた政府は形式上民主主義の体裁を整えているが、実際には全体主義あるいは独裁に近い。これらを称してエセ民主主義(illiberalism)という言葉がよく使われる。

民主主義の後退とエセ民主主義の台頭

 数字で民主主義の凋落状況を確認してみよう。  民主主義の指標としてはEconomist Intelligence Unit(英エコノミスト誌の研究所)の民主主義指数がよく用いられる(『Democracy Index 2018: Me too? Political participation, protest and democracy』、2019年)。  選挙の手続きと多様性、政府機能、政治参加、政治文化、人権という5つのカテゴリーごとに指数化されており、このうち選挙の手続きと政治参加以外のカテゴリーは指標ができた2006年以降、悪化の一途をたどっている。中でも政府機能(透明性、説明責任、腐敗)、人権は5つのカテゴリーの中でも最低スコアとなっている。  そして、人権が急速に低下しているのと対照的に政治参加は急速に上昇している。  各国別のランキングを見ると上位は欧米に占められる。20位までの国が完全な民主主義のスコアとなっている。欧米以外で10位以内に入っている国はニュージーランドとオーストラリアだけ、20位以内だとウルグアイとコスタリカが加わる。ちなみに日本は22位で欠陥のある民主主義に分類されている。韓国は日本の1つ上で21位、アメリカは25位である。  完全な民主主義が実現されているのは欧米の一部と4カ国だけで、これは人口ではたった4.5%であり、GDPでは20%を下回る。完全な民主主義は人口でも経済でも世界のごく一部を占めるに過ぎなくなっている。世界における民主主義の存在感、影響力は低下している。  日本は2014年までは完全な民主主義だったが、2015年以降は欠陥のある民主主義に転落した。アメリカは2016年、韓国は2015年、ギリシャは2010年に完全な民主主義ではなくなった。ただ、その一方できわめて低い水準(独裁)だった国々の状況は改善されていることも多い(ただし、完全な民主主義になったわけではない)。
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選挙のたびに民主主義が悪化する!?
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