鎌田さんが安田夫妻に質問した。
「アウシュビッツに収容されていたフランケルという人が、『どんな時も人生には意味がある』と言っている。安田さんも深結さんも40か月の拘束で大変な思いをされた。(その拘束に)意味があったと思いますか?」
「拘束中は走馬燈のように『どこで人生間違ったんだろう』とか『お世話になった人にお礼してなかった』とか、ずっと過去を振り返ってあらゆるものを悔やんでいました。生きて帰えってやり直すんだと。走馬燈の“予告編”を見た。
こんなしょうもない走馬燈を見られたので、残りの人生でそれを少し変えることができたら、死ぬときに少しでも悔いはないのかなと。ジャーナリストとしては、捕まって初めていろいろな囚人がいて、どのように扱われているのか分かった。取材者にはなかなか見せませんから。
ウィグル人のことなどは、捕まらないと知りえなかった。取材というのは、見たもの・経験したものすべてが生きてくるものなので、知り得たことや感じたことなどを本などにしたいと思っています」(純平さん)
「テロとか戦争とか、映画の世界のことと思っていたのがど真ん中に来てしまった。本当に人とのつながりを感じました。大変な時に時間をつくってくださった方々の気持ちに感謝しています。今後、歌や何かで表現できればいいですし、日本が素晴らしいということを伝えたいです」(深結さん)
拘束時の状況については、ブックレット
『シリア拘束 安田純平の40か月』(扶桑社)として出版された。純平さん本人が報道の間違いを直し、解説を加えたものだ。
鎌田さんはトークショーのまとめとしてこう語った。
「『世界幸福度ランキング』というものがあります。日本は(156国中で)58位で、他者への『寛容さ』については92位。ものすごく寛容さが欠けている。バッシングする人のほうも不幸せで、(SNSなどで)とんでもないことを書いていく。
もっと共感できる寛容な社会を僕たちがつくっていかないと、自分自身の首を絞めてしまう。僕は聴診器で戦っているし、ペンとか教育とか音楽とか、いろいろな戦い方がある。自立して、まっとうな社会をつくっていかないといけない」
今回の人質事件では、マスメディアがソーシャルメディアと合体して不寛容をつくり上げている様子が垣間見えた。しかしそんな社会の中でも、深結さんは人とのつながりを感じて、心を折らずにいられた。そこに「まっとうな社会」をつくるヒントがある。
純平さんには、戦争やテロという暴力で犠牲になっているシリアの人々に寄り添った、ジャーナリストとしての魂を感じた。そして「寛容さ」を世界にも向けていくことが、戦争を止めるために必要な道なのではないか。
<文/佐藤真紀(
JIM-NET事務局長)>