日本の使用済み核燃料乾式貯蔵計画は、35年先行する合衆国に似て異なるものですが、同じドライキャスクと称するものですから、やはり合衆国と同じく高い経済性と受動的安全性を保証するものと私は考えていました。また地元組み立てにより、過疎に苦しむ伊方町と八幡浜市にかなりの雇用と経済効果をもたらすと期待していました。
しかし、八幡浜説明会で示された資料にはじまり、日本電力・原子力業界の資料を読み解くとその期待は完全になくなりました。日本の乾式貯蔵計画は、いつもの事ですが、合衆国で通用するものとは似て異なる全くの別物でした。
日本の乾式キャスク(四国電力資料より)*12
日本の乾式キャスク(四国電力資料より)*12
(*12:
出典リンク)
合衆国の一事例(BWR用コンクリートキャスク)
Reducing the Hazards from Stored Spent Power-Reactor Fuel in the United States
Robert Alvarez, Jan Beyea, Klaus Janberg, Jungmin Kang, Ed Lyman, Allison Macfarlane, Gordon Thompson, Frank N. von Hippel
Science and Global Security, 11:1–51, 2003より
説明会でまず気になったのは、
日本のキャスクが痩せぎすであることでした。明らかに細いのです。細さは、
遮蔽体の薄さを意味します。これは
合衆国のコンクリートキャスクと用途が全く異なるか、技術的に相当な無理をして代償を払っていることを意味します。
日本のキャスクの
外径は2.6m、質量は120トンです。合衆国では
外径3.6m、質量は180トンです。この差は
中性子遮へい能力に直結します。日本政府と電力業異界、疫学業界によれば、
”日本人は20mSv/yでもニコニコしていればダイジョウV、100mSvまで気にするな”とのことですが、さすがに中性子遮へいで手抜きは出来ません。より効率的な水か樹脂を遮蔽体に用いることはすぐに推測出来ました。
合衆国のコンクリートキャスクは、
厚さ6〜8cmの炭素鋼と厚さ75cm前後のコンクリートで中性子をはじめとする放射線を遮蔽します。そして、これによって
F16程度の軽戦闘機突入に耐えるとされています。キャスクは、コンクリートと炭素鋼によって80年の寿命を得ますが、コンクリートさえ健全であれば、寿命の80年を超える運用も不可能ではありません。実際に100年程度は持つと期待されています。
日本の金属キャスクは、Main Yankee廃炉資料新版に示される輸送用金属キャスクにたいへんに近く、
中性子遮へいはエポキシ樹脂に依ります。エポキシ樹脂は優れた中性子遮蔽体ですが、
自身の化学結合が切断されることによって中性子を遮蔽するために設計寿命を基準とした完全な消耗品です。また、エポキシ樹脂は熱で劣化しますので放熱のために金属フィンを組み込むことにより構造が複雑化し、かなり高価となります。
合衆国の乾式キャスクは
1基3千万円から1億円で、概ね5千万円程度と推測されています。日本の乾式キャスクは
2億4千万円で、概ね2億円から3億円の間になりますが、合衆国に比してコスト意識が極めて低いために私は3億円になるだろうと推測しています。また、合衆国と異なり、現地製造は不可能なために現地での雇用効果と経済効果は極めて限定的となります。
現状の計画で乾式キャスク貯蔵を導入すれば、運用開始40年後に極めて深刻な事態となり、50年後(60年後)には、遮蔽能力の欠如したキャスクを抱えて右往左往することになります。
経済効果も極めて少なく、立地自治体は将来の極めて高いリスクを雀の涙程度の見返り(経済効果)で引き取る事になりかねません。
このような脆弱で高リスクの計画が合衆国で認められる可能性は低いでしょう。貯蔵・輸送兼用とするならば、輸送先の当てが揺るいではいけません。いつまでに、どこへ輸送するのかが明確でなければ将来に大きな政治リスクだけでなく安全上の重大なリスクを発生させます。
実はこの貯蔵、輸送兼用の乾式貯蔵キャスクは、ドイツなどでの先行採用例があります。合衆国でも、輸送を重視して金属キャスクを導入した事例があります。日本の場合は、合衆国で欠陥が指摘されているTin Can Caskと呼称される薄型金属キャスクではなく、金属キャスクとしては厚形のTick Caskと称されるもので、貯蔵計画そのものの将来にわたる整合性と完結性があればコンクリートキャスクに大きく劣ることはないです。但し、2〜5割ほどコンクリートキャスクに対して高コストであるために合衆国では主流となりませんでした。
問題は、事業の将来にわたる冗長性と完結性がないと言うことです。すでに世界では放棄する国が相次ぎ、経済性でも資源論でも完全に合理性を失っている核燃料サイクルの一環としてキャスクを含めて計画全体が設計されているために、核燃料サイクル事業が破綻すれば乾式貯蔵事業そのものが完全に破綻するという本質的欠陥を持っています。残念ながら、
夜郎自大で自滅した原子力後進国なればこその似て異なる見かけ倒しのガラクタと言うほかありません。
このガラクタですが、キャスクの一括形式承認で、今後はたいした審査を要しなくなる可能性があります。合衆国で運用実績のある優れたものなら同意出来ますが、合衆国で主流となり得なかったもののパチものでされるのは困ります。