乾式貯蔵技術を米国とはまったくの別物に変えたヒノマル原発産業の宿痾

日本ではどうなのか

 日本では、合衆国と異なり沿岸立地のために経済性に優れた露天管理こそできませんが、受動安全性に優れたドライキャスクによる暫定管理の導入は、福島核災害において生じたSFPの管理・制御不能とそれによる破滅的大核災害発生の可能性を大きく減じます。そこで本連載で取り扱う八幡浜PA講演会で論じられた伊方発電所を例として取り上げて解説します。  合衆国においては、ユッカマウンテンHLW最終処分場事業が、2010年運用開始の直前で中止となったために、運転認可を巡る司法リスクが発生し、SFの最終処分までの時間稼ぎのためにドライキャスクによる暫定管理が急速に普及しました。これは、その受動安全性の高さだけでなく、導入費こそ高くつくものの、今後数十年から80年に及ぶ長期管理にかかる管理費用がSFPより安く、総コストでは経済的であると言う理由もあります。従って、その安全性だけでなく資本費=建設費の削減に力が注がれています。結果として現地組み立てとなり、発電所立地点での雇用など、経済的見返りが見込まれます。  日本では、1980年代から電力中央研究所(電中研)などで乾式貯蔵について検討がなされてきました*が、経済性への一定の評価はあったものの、その後あまり進展がありませんでした。 (*:使用済燃料乾式貯蔵技術の検討・評価-キャスク貯蔵建屋の概念設計と費用見積り- 1985/9)  日本では、核燃料サイクル政策によってSFは再処理に送られるために、理屈の上ではSFPがあふれることがありません。また、MOX-SFは現在の技術では商用再処理出来ず、新技術開発によって商用再処理しても軽水炉では燃えない(原理的に臨界核反応できない)のですが、高速増殖炉が商用化すれば、MOXでの核燃料サイクルは可能となります。これが新たな投資をすることなくSFPによる湿式管理に完全に依存してきた日本のSF対策の基本をなす教義(ドグマ)です。  よく知られるように2016年12月21日にもんじゅが放棄されるまで、日本では軽水炉・高速増殖炉サイクルを国策ドグマとして、これに反する考えは徹底して排除されてきたのが本邦原子業界です。もんじゅの廃炉決定までは、たとえ10年20年遅れても天文学的なお金がかかっても、商用としては完全に完全に完全に無意味な高コストであっても、このドグマを貫徹し、ヒノマルゲンパツPA(嘘とペテンと暴力とカネ)によって市民を欺し、事業を強行し、敗北を認めることになる施策を行う事は、政府・業界一丸となって一切許しませんでした*。 (*:典型事例として、原子力工業(日刊工業新聞社 月刊)において生じた原子力未来研究会騒動が挙げられる。”原子力未来研究会ホームページ“)  結果、SF貯蔵が破綻した原燃東海第二のみで2001年に、次いで東電福島第一において試験という名目で乾式貯蔵が始められ、日本では取り組みが極端に遅れていました。  もんじゅの遅延と失敗に続き、第二再処理工場=六ヶ所村再処理工場の20年に及ぶ遅延、第一再処理工場=東海再処理施設の廃止によって国内でのSF減量の目処がつかず、英国の再処理事業撤退もあって、現在、国内原子力発電所からのSF搬出が著しく停滞しています。結果、SFPの容量枯渇が全電力で深刻化し、唯一東京電力と原電のみが青森県むつ市に中間貯蔵施設を共同で建設しました*。一方で関西電力などの他の電力は、SFPが容量限界に近づき、東電中間貯蔵施設の利用や新設を青森県から断られた結果**、手の打ちようがなくなっています。 (*:”リサイクル燃料貯蔵株式会社” ) (**:青森新幹線が開通し、六ヶ所村核コンビナートが雇用を創出している今となっては、青森県にとって新たに核施設を引き受ける旨味はない。今後100年から百数十年にわたり県内核施設がお金を落とし続けることは確実で、福島核災害後の政治的リスクを青森県が新たに引き受ける可能性はたいへんに低い。但し、下北半島であぶれた自治体が飛びつく可能性はあり、青森県政界の動きには興味がある。なお、青森県は、HLW/SF/TRUの最終処分を県内で引き受けることは決して無いとしてきている。これは青森県核政策の根幹であるため、青森県に恒久的なHLW/SF/TRU最終処分場が立地できる可能性はほとんどない。逆に言えば、恥も外聞もなく破れかぶれになった自治体が、県と一体となって誘致すれば確実に成功する。青森県のような破格の高い見返りを得られるか否かはその県の政治力に依るだろう)  乾式貯蔵施設の計画は、このような状況においてほぼなし崩しに始まっており、こういったなし崩しの一番槍は、おなじみの四国電力が担うのが電力業界の慣習です。これまで安全性に本質的差は無いとしてきた電力業界が、乾式キャスク管理導入に動いているのは、NRAが、受動的安全性に優れる乾式キャスク管理を求める意向を示しているからという理由もあります。  なし崩しですから、SF中間貯蔵計画の全体像は存在しません。故に、将来核燃料サイクルが国内稼働すれば中間貯蔵は通過点に過ぎなくなるのでSFがそこに永久に留まることはないというのが理屈です。従っていつまでかも分かりませんし、キャスクの寿命を超えればどうなるかも分かりません。  日本のSF乾式貯蔵計画は、あくまでPlan Aである核燃料サイクルの一環であって、商用としては完全に破綻している核燃料サイクルが放棄されたときやさらなる遅延を生じたときのPlan BやPlan Cが全く想定されておらず、柔軟性、不確実対応性が全くありません。極めて脆弱な計画と言うほかありません。

日本のドライキャスクによる乾式貯蔵の特徴

 日本でのドライキャスクによるSF乾式貯蔵は下記の特徴があります。 1) 大前提として、20年以上の遅延で運用開始が望まれている六ヶ所村再処理工場(旧第二再処理工場)までのつなぎである 2) 核燃料サイクルが大前提であり、キャスクの寿命は50年であり設計上延命の余地はない限定された寿命の消耗品である(規制上50年、最大限度60年) 3) キャスクの寿命50年に10年を残す40年後に撤去が検討開始される 4) 合衆国のISFSIに該当する計画はない。但し、原子力発電所立地県の突き上げから青森県への持ち込みを検討する関西電力などの事例がある 5) 青森県はISFSI相当施設の受け入れは拒否の構えで、関西電力は行き詰まっている 6) コンクリートキャスクの露天管理は、沿岸立地である日本の原子力施設では不可能である。結果、屋内管理である 7) 日本では、貯蔵輸送兼用の金属キャスクの採用が予定されている。福島核災害では、数こそ少ないがキャスクが津波により被災したものの、健全性は維持されている 8) 合衆国と正反対に、極めて高コスト構造となっている。キャスク価格は5〜10倍で寿命半分程度、保管施設は屋内型のためにかなり高価となる 9) キャスクは完成品の持ち込み(せいぜい半完成品の持ち込み)であり、地元への雇用効果、経済効果はほとんど見込めない 10) キャスクは合衆国では保管専用であるが、日本では小型軽量の保管・輸送兼用金属キャスクとなる。質量を大幅に軽減するために保管用キャスクとしては薄型である。放射線遮蔽の大原則は物量であり、薄型はそれに反するため、必ず大きな代償を伴う 11) 中性子遮蔽体がエポキシ樹脂であるため、キャスクは50年限定の消耗品であり、50年後以降の継続利用の可能性はない。エポキシ樹脂は、中性子線照射によって消耗する 12) 計画全体が核燃料サイクルに完全に依存しており、柔軟性と冗長性が全くない
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まったく別物でポンコツ過ぎる日本の乾式貯蔵
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