乾式貯蔵技術を米国とはまったくの別物に変えたヒノマル原発産業の宿痾

日本に35年先行する合衆国の事例

 合衆国では、ユッカマウンテン最終処分場事業の中止に伴い、SFの処分先がなくなりました。また連邦裁判所は、SFの処分方法(中間管理でも可)が決定されるまで今後の原子力発電所の運転認可、運転延長認可は出来ないという判断を下しました。  合衆国の原子力電力事業者は、運開以来貯まる一方のSFの管理費用に苦しんでおり、また運転期間の40年から60年への延長手続き(2015年に80年運転の指針もNRCより示されている)もあって管理費用が低く固有安全性の高いSF中間管理の必要性が増し、ドライキャスクによるSF乾式貯蔵が急速に進展しました*。 (*:原子力発電所の長期間運転によるSFP管理費用の増大に合衆国の原子力電力事業者は悩まされてきており、今世紀に入る頃から設備投資額こそ大きいものの管理費用が低廉なドライキャスクによるSF乾式貯蔵は合衆国において急速に普及してきていた。経済性が重視されるため、合衆国においては、ドライキャスクは屋外露天管理であり、ドライキャスクの価格低減と長寿命化が強く求められてきた。結果、合衆国においてドライキャスクの価格は3000万円から1億円(スタンフォード大学の評価では6千万円)であり、SF収容期間は80年となっている。なお、ユッカマウンテン事業の中止、WIPPでの火災事故などから、300年中間管理可能なドライキャスクの提案がメーカーからなされている。また、キャスクによる乾式貯蔵については、電中研も1980年代から、しばしば報告書で紹介してきている。その費用、キャスク単価についての紹介もなされてきている。 電中研レビュー No.52 2006.2など参考になる)  合衆国では1970年代後半に核燃料サイクル政策が放棄されており、その後商用原子力発電所でのMOX燃焼は行われていません。兵器級余剰PuのMOX燃焼計画も経済性の欠如から放棄されました。従って、合衆国には乾式貯蔵が極めて困難なMOX-SFが事実上存在しません。  結果、合衆国の原子力電力事業者は、十分に冷えた古いSFを乾式貯蔵に移行させ、SFPに十分な空間を空けることを進めています。  ユッカマウンテン事業の再開ないし、新たな事業地の確保によって80年以内にSFの最終処分を目指す。それまでの時間をSFPと乾式貯蔵を併用したSF中間管理で稼ぐと言うのが合衆国におけるSF管理の現状です。既述のように、原子力メーカーの中には、最終処分場事業の破綻を見越して300年間の中間管理を提唱する事業者もいますが、「時間稼ぎをして、最終処分に移行する」という基本は変わりません。また、最終処分場は10年程度の時間と約1兆円の事業費*で完成しますので、政治的手続きによって立地点を新たに定めるか、ユッカマウンテン事業の地元合意を得るために稼いだ時間が用いられます。 (*:合衆国では、原子力発電事業者が1kWhあたり約0.1円を放射性廃棄物基金(NWF)に拠出しており、2007年時点で積立額は317億ドル(約3兆2千億円,1ドル=1円で概算)となっている。中止となったユッカマウンテン事業には同基金より約90億ドルが拠出されており、原子力電力事業者や地方政府から事業中止に対して訴訟が提起されている。なお、2007年時点で合衆国におけるHLW処分総費用は962億ドル(約10兆円)と見積もられている。参照:米国の地層処分の状況NUMO 2010年10月)  合衆国では、2017年の共和党への政権交代よって、ユッカマウンテン事業の再開が期待されましたが、トランプ政権の動きは極めて鈍く、再開の見込みはありません。  合衆国の原子力電力事業者は、日本と異なり経済性を強く志向します。設備投資額が大きく、維持費の低いSF乾式貯蔵において、設備費、資本費の低減は必須であって、合衆国では露天管理が主流となり*、ドライキャスクも安価で長寿命のコンクリートキャスクが選択され、既述のように衛星、航空写真では、原子力発電所のサイト内にドライキャスクが立ち並ぶ光景が見られるようになっています。 (*:合衆国の原子力発電所は、内陸に立地しているために塩害の心配が無い。コンクリートキャスクにとって塩害は、コンクリートと金属を劣化させるために極めて憂慮すべきものであって、日本では経済性に優れるドライキャスクの露天管理は不可能と言って良い。コンクリートキャスクの露天管理に至るまで、合衆国でも金属キャスク、屋内管理、横向きのラック管理など様々な手法が実際に採用の上で検討されてきた。また、アイダホ国立研究所(INL)では、1980年代から継続して実際に使用されているドライキャスクを各種露天で運用の上で健全性と放射能漏洩の有無を評価し続けている。参照:“電力中央研究所 研究報告書 L10017” 2011年7月

米国でのドライキャスクによる乾式貯蔵の特徴

 合衆国でのドライキャスクによるSF乾式貯蔵は下記の特徴があります。 1) 大前提として、2010年に運用開始が予定されていたユッカマウンテンHLW最終処分場事業の再開ないし新処分場運用開始までのつなぎである 2) 合衆国では核燃料サイクルを行わないので、キャスクからのSF取り出しは原則としてISFSI(独立使用済核燃料保管施設)の撤去時まで行われない 3) 最大80年の保管=時間稼ぎを前提としている 4) 合衆国内4つの区域(リージョン)毎に設置されるISFSIでの集中管理を目指している 5) リージョン毎のISFSIの立地に難航しており、暫定的に発電所毎にISFSIを運用している 6) コンクリートキャスクの露天管理が主流となっている 7) 経済性重視のために初期費用の削減に力を注がれている 8) キャスクは現地組み立て 9) キャスクは保管専用であり、輸送用キャスクは将来より小型軽量のものが用いられる 10) 80年後以降も、キャスクの健全性が確かめられれば継続利用の可能性がある(塩の侵入、コンクリートの劣化が課題) 11) 司法リスクなど将来生じる可能性のある環境変化に柔軟に対応出来る。最悪の場合、ISFSIでの暫定管理を300年行う技術的選択も模索されている。300年という時間は極めて長く柔軟性を提供する。日本で300年昔と言えば徳川綱吉、新井白石、田沼意次の時代である
Maine Yankee廃炉広報資料(旧版)より

Maine Yankee廃炉広報資料(旧版)より(*7)
キャスクは部品をISFSIに持ち込み、現地で建造する。写真より、一般的な鉄筋コンクリートであることが確認出来る。完成したキャスクへはSFPの中でSFの装填が行われる。その後トレーラーで輸送し、ISFSIに設置する

(*7:出典リンク
Maine Yankee廃炉広報資料(新版)より

Maine Yankee廃炉広報資料(新版)より(*8)
写真上は、ISFSIのコンクリート基板に設置中のドライキャスク。
左中図は、保管用ドライキャスク。中性子遮へいは28インチ(71cm)のコンクリートが担い、γ線遮蔽は6.4cmの炭素鋼とコンクリートが担う。キャスク外径は、3.4mで、高さ5.5m、質量150tで構造は単純である。近年では外径3.6m、コンクリートが76~80cmの厚さ、質量が180tと大型化している。
左下図は、将来の輸送用キャスク。外径2m、長さ5.3mの金属製で、中性子遮へいは樹脂が担うと予想される。故に寿命は短い。
写真右下は、Maine Yankee ISFSI全部で64基のキャスクがある。内60基がSFで、4基が解体廃炉によって生じたGTCC LLW(L1廃棄物)

(*8:出典リンク
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