●2003年
(年間大賞)「毒まんじゅう」野中広務(元衆議院議員)
”2003(平成15)年9月の自民党総裁選で、政界引退を決意した野中広務元幹事長が、小泉首相支持に回った一部の政治家を非難する際に使った言葉。具体的には小泉再選後に密約されたポストをさし、自己の功利にはしる政治家の実態にこの一言で警鐘をならした。”
京都の地方政治家から国政へと叩き上げのキャリアを積んだ野中広務の言葉が取り上げられた。
小選挙区制のもとで、個々の政治家は中長期の展望を持ちにくくなった。
余裕を失ったといってもよい。新人候補や当選回数の浅い議員は議席を守ることに必死である。しかし
ごく短期の視野の合理性は中長期におけるそれらと合致しないことが多々ある。
中間団体や地方組織が弱体化し、インターネットが政治の個々人に対する(擬似的な)直接アクセスを可能にするなかで、無防備な有権者もまた直接政治と向き合わざるをえない機会が増えた。同時に、個々の議員もまた政党や政治と対峙せざるをえなくなりつつある。こうして徐々に
政治は多元性と多様性を喪失しつつあるかのようにも見える。
多元性と多様性を失い、萎縮して表層的な民意に左右される政治は不安定だ。
少し先の日本政治の将来像を予見したかのような表現だった。
(年間大賞)「マニフェスト」北川正恭(早稲田大学教授)
”通常は「政権公約」と訳される。期限、財源、数値目標、プロセスなどが明らかにされた具体的な公約のこと。“はっきり示す”というラテン語にその語源がある。イギリスの総選挙で行われており、書店などでマニフェストが売られている。日本でも、2003(平成15)年の春の統一地方選で多くの候補者が有権者にマニフェストを提示し、同年秋の衆院選でも各党が冊子を作成して「マニフェスト選挙」などともいわれた。長年マニフェストの必要性を提唱してきた受賞者の北川教授は、授賞式で「流行で終わっては困る」と話した。”
百花繚乱的で具体化の筋道も見えづらかった「政権公約集」に背を向け、地方政治のなかから存在感を高めたのが2000年代の
マニフェスト政治だった。当時の民主党が本格的に採用し、自民党やその他政党も後に続きはじめた。与野党が得意分野を中心に具体的な政策論争を戦わせるようになるかに思われた。
皮肉なことに、国政において2009年からの民主党政権のもとでマニフェスト政治はぐっと時計の針を巻き戻したかのように後退した。人々は民主党政権の残滓に心底辟易したかのようだった。2010年代の国政選挙では
流行のバズワードと百花繚乱的な政権公約集が復活した。
野党第一党は集合離散を繰り返し、安全保障、憲法改正の是非、経済政策といった重要政策の基軸すら未だに明確にならないまま、政権批判を展開している。政権批判は重要な野党の役割だが、それだけでは我々は政権交代を期待することはできない。最近では野党もマーケティング政治の流れを汲み、プロモーションや訴求方法の開拓に熱心だが、
肝心の政策が見当たらないままでは如何ともし難いものがある。
NPO等の市民社会との対話など得意分野の開拓を行い、地元の名士や官僚など、いつの時代にも一定数存在する政治家志望者たちの受け皿としての期待感を高め、マニフェストも含めて世論を味方につけていった筋道は再度顧みられる価値がある。
(トップテン)「年収300万円」森永卓郎(UFJ総合研究所 経済・社会政策部長)
”いま転職すれば即刻年収300万円、転職しなくてもじわじわと賃金が下がっていき300万円に落ち着く時代。2003(平成15)年3月、日本経済新聞が経営者に行ったアンケートでも「今後とも定期昇給を残す」と回答した者18%。”
長く続くデフレや少子高齢化に伴う年金生活者増も踏まえながら、
年収300万円の時代が訪れると当時はセンセーショナルな予言だった。厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、2003年の全世帯平均所得金額は579.7万円、高齢者世帯290.9万円、児童のいる世帯で702.6万円だった。つまるところ素朴に考えれば。全世帯平均の半分、高齢者世帯並になるというのが筆者の予言だった。
現在、どうなったか。2016年の全世帯平均所得金額は560.2万円、高齢者世帯で318.6万円、児童のいる世帯で739.8万円だ。直近のピークがそれぞれ1994年664.2万円、1998年の335.5万円、1996年の781.6万円となっている。ほぼ横ばいか微減で推移しており年収300万時代には至らないが、中央値は442万円、
平均所得金額以下の世帯が61.5%を占めていることを踏まえると楽観視もできない状況だ。
次回は、引き続き2000年代の2004年以降について振り返ってみたい。
<文/西田亮介 Photo via
Good Free Photos>
にしだ りょうすけ●1983年、京都生まれ。慶応義塾大学卒。博士(政策・メディア)。専門は社会学、情報社会論と公共政策。立命館大学特別招聘准教授等を経て、2015年9月東京工業大学着任。18年4月より同リーダーシップ教育院准教授。著書に『
メディアと自民党』(角川新書)、『
なぜ政治はわかりにくいのか』(春秋社)など