鈴木宗男氏の経験談、小澤社長の熱意が上川法務大臣を動かす
小澤社長と殺人未遂で服役した社員Aさん。「ずっとここで働きます」と語る
また小澤社長と同行していた鈴木元議員は、国会議員時代に、北海道・国後島の日本人とロシア人の友好の家(通称ムネオハウス)の工事に関わる入札を意図的に地元建設業者に随意契約させたなど複数の罪に問われ、服役した経験をもつ(鈴木氏は冤罪を主張)。
鈴木氏は小澤社長の話が終わると口を開いた。
「私も、2010年12月から1年間、収監された経験があります。周りの受刑者を見ていると、多くの人が出所しても行く当てがないんです。これはまずいと痛感しました。現場のことを政治家は知らない。少しでも更生できる環境整備を整えていただきたい」
この言葉には説得力があった。上川大臣が頷いた。
この取材には大手メディア記者や出版社の編集者など数名が来ていたが、その1人は、「大臣は官僚が作ったマニュアル文書ではなく、自分の言葉で交渉に臨んでいた。行政としての周知が不十分であることも認めた。一気には無理でも、出所者を巡る社会環境が少しは是正されるかもしれない」と語った。
果たしてその後、北洋建設のポスターは全刑務所で貼り出されることになる。小澤社長の熱意が大臣を動かしたのだ。
「出所者の雇用支援のため、公費助成を増やしてほしい」と再び法務省に訴える
2019年1月、法務大臣室。左が山下法務大臣。右が小澤社長の妻のあきみさん
さらに9か月後の2019年1月16日、小澤社長は再度法務省を訪れ、山下貴司大臣と面会して訴えた。
「出所者受け入れには多大な費用がかかります。僕はこれまで約2億円を出所者の更生に費やしてきました。今ではその費用捻出のため、個人の土地も売りに出しています。ぜひ、公費での助成を増やしてほしいです」
北洋建設の寮。定員19人
法務省はこれまで無策だったわけではない。例えば出所者の雇用支援として、「協力雇用主」(出所者を雇用する企業)を増やそうとする制度がある。出所者を1人雇用すれば、その企業にその後12か月間で最大72万円の奨励金を支払う制度で、北洋建設も協力雇用主の一つだ。
さらに、小澤社長が就職希望の受刑者に面接に行く際には、交通費と宿泊費などを合わせて数十万円がかかる場合があるが、その助成もある。
だが問題は、これら助成のための予算が少ないことだ。北洋建設では毎年、年度途中で底をつくため、面接のための交通費も小澤社長がほとんど自己負担しているというのが現状だ。また、出所者は手持ちの金がほとんどないために、札幌にまでくる交通費や下着も含めて衣服の支給などもしなければならない。