2019年2月3日、ネット世論操作を暴いているデジタル・フォレンジックラボが
”#InfluenceForSale: Venezuela’s Twitter Propaganda Mill”と題するレポートを公開した。このレポートではベネズエラにおけるネット世論操作とロシアとの連携の詳細が書かれていた。
ベネズエラ政府は、政府関係者とそのフォロワーにソーシャルメディアへの協力を要請し、毎日ハッシュタグを投稿させており、そのハブのひとつである
@Tuiteros_Vzlaは約6万人のフォロワーを持ち、10万超のツイートを投稿していた。
ツイートする内容は政権の支持やキューバ支持などである。Hootsuite社のレポートによればこの国の44%はアクティブなソーシャルメディア利用者であり、影響力は大きい。
このアカウントがプロモートしたハッシュタグのほとんどはベネズエラでツイッターのトレンドに入り、中には世界のトレンドに入ったものもあるというから、その影響力の大きさがわかる。
@Tuiteros_Vzlaは
ハッシュタグ拡散に協力してくれた謝礼を、ベネズエラ政府が発行するIDカード(マザーランドカード)とデジタルワレットおよび専用アプリを介して支払っている。カネを受けとるために国民は自らの情報を登録している。このアカウントは1週間で5800人に謝礼を支払ったとツイートしている。
カネで世論を買う、売るという行為が日常的に行われているのだ。2018年5月のツイートによると
一人当たりの謝礼の金額はベネズエラの平均月収の3分の1に達していたという。
こうした方法で支持者を増加させると同時に、ボットもしくはボットに似た行動をとるアカウントによってトピックスを押し上げる仕掛けを用意していた。デジタル・フォレンジックラボはアカウントのツイートを分析し、そう結論している。
@Tuiteros_Vzlaはベネズエラ政府のアカウントではないが、政府広報と連動するなど明らかにつながっている。
同レポートでは、ロシアとの連携についての事例も紹介されている。2017年7月にマドゥロ大統領が西側のメディアがベネズエラに対する”フェイクニュース”(※マドゥロを批判する記事)にあふれていることを訴えると、ロシアのプロパガンダ媒体スプートニクはすぐにそれを紹介している。(参照:
Maduro Accuses World Media of Spreading Fake News on Venezuela)
2019年2月7日、EUの対ロシアネット世論操作組織であるEast StratCom Task Force によると、ロシアのプロパガンダ媒体であるスプートニクとRTは全ての言語でベネズエラに関する記事を掲載しており、特にスペイン語版の影響が大きいとしている。これらの記事へのリンクを含むツイートは2018年12月1日から記事掲載の日までに31万ツイートにものぼった。
フランス大統領がマドゥロと敵対するグアイドー暫定大統領の支持を表明した際には、ロシアが操作している疑いのあるアカウントが批判的なツイートを行った。このアカウントはシリアに関してもロシアの意向に沿ったツイートを行っていた。(参照:
Venezuela, e-voting and Western money)
前述のように2019年1月23日にグアイド暫定大統領が誕生した。この日、大規模な反政府デモが行われ、ネット上ではベネズエラに関するさまざまな情報と意見が飛び交った。2019年1月25日にデジタル・フォレンジックラボが詳しいレポートを公開している。
●
Protests Go Viral in Venezuela
このレポートによれば、政府の関与するインターネットプロバイダーは政権支持派の多さによって、地域的にネットをブロックしたり、速度を上げたり、下げたりしていたという。
以前からベネズエラでは政府によるこうしたネット対策が行われており、TOR(匿名通信ツール)の通信をプロバイダがブロックすることもあった。Wikipediaへのアクセスをブロックしたこともあった。
ベネズエラに関するネット上の情報の動きをデジタル・フォレンジックラボが調査したところ、グアイドー支持や反政府に関するものはボット使用の痕跡は認められず、マドゥロ政権支持ではボット使用が認められた。
危機感を募らせたマドゥロ大統領はメディアへの圧力を強めているようである。(参照:
”Maduro Fights Back With Targeted Killings and Media Blackout”2019年1月29日、Bloomberg)
◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」
<取材・文/一田和樹>
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『
フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている