三重県の麻疹感染拡大の背後にある、「反ワクチン」「反医療」信仰の危うさ

宗教だけではない医療拒否、反ワクチン

ホメオパシーの放射能レメディ

放射能を含んだ福島の土から作ったと称するホメオパシーの砂糖玉(レメディ)

 宗教を標榜してはいない民間療法でも死者が出ている。  ホメオパシーは、症状の原因となる物質(とホメオパシーにおいて信じられている物質)を水で希釈し、それを染み込ませた砂糖玉(レメディーと呼ぶ)を飲むことで、その症状を解消・軽減できるとする民間療法だ。原料となる物質は100倍希釈を10~30回も繰り返すため、理論上、レメディーにはその物質の分子が1つも含まれていないと言われる。当然、その効果は科学的に否定されている。  2009年、生後2カ月の女の子がビタミンK欠乏性出血症と診断され、その後、亡くなった。ホメオパシーを信奉する助産師が、本来乳児に経口投与すべきビタミンKを投与せず、ホメオパシーのレメディーを与えていた。  両親が助産師を相手に裁判を起こすと、複数のメディアが報じた。中でも朝日新聞が本紙とウェブサイトの双方で、この問題を熱心に報道した。日本学術会議が〈科学的な根拠がなく、荒唐無稽〉とする会長談話を発表し、医療現場からの排除を主張した。その翌日には日本医師会と日本医学会の両会長が連名で〈全面的に賛成〉とする声明を発表した。  前述の助産師が所属していた「ホメオパシー医学協会」は、いわゆる「反ワクチン運動」も展開している。その系列団体の反ワクチン活動家であることを隠して富山市議会議員に当選した、上野ほたる氏のような反ワクチン政治家もいる。 『[断薬]のススメ』などの著書がありワクチンも批判する医師・内海聡氏は昨年、政治団体「日本母親連盟」を設立し顧問に就任。今年の統一地方選と参院選での議席確保を狙うとしている。ホメオパシー医学協会の由井寅子会長は、これを支持するメッセージを寄せた。  由井氏も、同協会のウェブサイト上で「好転反応」の存在を主張している。 〈試練の一つとして好転反応があります。好転反応というのは、ホメオパシーで使われるレメディー(砂糖玉やアルコール溶液)の刺激を受けて自己治癒力が発動し、体から体毒(老廃物)の排泄が始まることをいいます。〉  また由井氏の有名なセリフに「病気はありがたい」というものがある。『予防接種トンデモ論 病原体はありがたい!子どものかかる病気はありがたい!』(ホメオパシー出版)というタイトルの著書まである。由井氏は、自らが学長を務める「ホメオパシー統合医療専門学校」のウェブサイトで、こう書いている。 〈病原体の感染による急性病も、自然がなす同種療法で、病原体は自己治癒力を触発するレメディーと同じ役目であり、もし老廃物が体内に溜まっていなければ、病原体が増殖することもなく症状が酷くなることもないのです。そういう意味で病原体も子どものかかる病気も、老廃物を排出へと導いてくれるありがたいものなのです。もちろん、急性病のときは、ホメオパシーのレメディーを使うことで治癒を加速し排泄をスムーズにしてくれるのでどんどん利用されるとよいでしょう。〉  由井氏の論法は、前出の岡田茂吉によく似ている。  ホメオパシーを日頃の自然治癒力を高める等のためではなく明確に「急性病」への対処法として推奨している点も、恐ろしい。どう考えても医療上の「手遅れ」を招く考え方だ。
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根底にある「医療拒否」にこそ目を向けよ
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