三重県の麻疹感染拡大の背後にある、「反ワクチン」「反医療」信仰の危うさ

MC救世神教のウェブサイト

MC救世神教のウェブサイト

 三重県に本部を置く宗教法人「ミロクコミュニティ救世神教」(MC救世神教)で麻疹(はしか)の集団感染が判明した1月10日以降、三重県内での麻疹流行が未だに終息しない。県の発表ではすでに3次・4次感染者も発生。2月17日時点で、三重県だけでも患者数は49人にのぼり、近隣5県で60人を超える。  三重県での麻疹確認数は2017年の22人の2倍以上となり、今年は過去10年で最多となることが早くも確実となった。2月13日時点での国立感染症研究所のとりまとめによると、全国は今年に入ってから167人の感染が確認されている。3分の1以上をMC救世教による集団感染者とその2次・3次・4次感染者が占める計算だ。1月下旬の時点では半数以上を占めていた。  MC救世神教は、岡田茂吉を教祖とする世界救世教の分派の一つ。岡田の教えに従って、医療全般を否定し、病気や怪我は手かざし(浄霊)によって治せると信じる宗教団体だ。当然、ワクチンも推奨されない。  ところがMC救世神教は今回の件で、ワクチンの必要性を議論する材料にされるばかりだ。ワクチンどころか医療全般を否定する宗教の危険性に目を向けた報道が全くと言っていいほどない。反ワクチン問題ではなく、医療否定宗教の問題として改めて考えてみたい。

集団感染の被害者は子供や若者

 三重県での集団感染は、昨年末に開かれたMC救世神教の研修会で起こった。10~20代の若者を中心とする研修会で、年齢からして、信者である親を持つ2世や3世の信者たちと考えられる。  参加者は49人。参加者の居住地の内訳は不明だが、このうち三重県在住者については県が24人(全員10~20代)の感染を確認した。ワクチン接種歴があったのはたった4人。その全員が、通常2回接種しているはずのところが1回だけだった。  MC救世神教は集団感染発覚から2週間近くも県薬務感染症対策課等による団体名の公表を拒んできた。信者以外の2次・3次感染者が出て、週刊新潮が同教団に取材を申し入れた直後の1月22日になって、教団はウェブサイト上に謝罪文を掲載することで「カミングアウト」。同時に教団は、トップページ以外のすべてのページを削除した。  それまで同サイトには信者の体験談が大量に掲載されていた。麻疹に限らず、ほかの病気、怪我、障害などを、医療ではなく手かざし(浄霊)で改善したとする内容だ。子供が発熱で痙攣を起こしたり呼吸停止になったりした場合ですら、信者である親が病院に搬送せず教団の支部長などに連絡して浄霊で「治した」かのような体験談も複数あった。「三男は、妊娠中からご浄霊を頂く中で育ち、ワクチンや予防接種などは1本たりとも体に入れていない」と書かれたものもあった。  麻疹以前に、いつ死者が出てもおかしくない教団であることが一目瞭然だった。  体験談では大人が医療を拒否した内容も多数ある。それももちろん問題だが、子供の場合は宗教への入信も教義に基づく医療拒否も自分の意思で選択できないことから、特に深刻な問題だ。

子供についての医療拒否は虐待

 医療を拒否する宗教をめぐっては、ワクチン以外のことで死者が出ている。そう聞くと、古い世代はエホバの証人(ものみの塔聖書冊子協会の信者のこと)の輸血拒否問題を思い浮かべるかもしれない。  保護者が子供に必要な医療を受けさせない行為は、「医療ネグレクト」と呼ばれ、虐待の一形態である。  エホバの場合、輸血は聖書が禁じる禁忌であるとされ、命と引換えになる場面でもその教義を重視することがある。1985年に小学5年生の男の子が交通事故にあい、両親が治療の際に輸血を拒否。男の子は死亡した。男の子名前から「大ちゃん事件」として知られている。  成人信者のケースだが、1998年には、手術の際に意思に反して輸血をされたとして信者が医師、病院(国)を相手取って損害賠償を請求した裁判で、最高裁が医師らの事前説明の不備などを理由に、賠償を命じた控訴審判決を維持した。  いまだに医師たちを悩ませる、医療における宗教問題だ。
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治すつもりなのに死に至る悲劇
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