勤労統計問題、日雇い労働者の除外の影響をなぜ政府は見ようとしないのか

日雇い除外の影響が懸念されていたのに試算しなかった政府

 2月4日の衆議院予算委員会の質疑で小川淳也議員は、日雇い労働者を毎月勤労統計の調査対象から除外することが賃金額に及ぼす影響について、総務省の統計委員会の部会で委員の中から懸念の声が出ていたことを指摘している。  具体的には、2016年12月15日の統計委員会サービス統計・企業統計部会の議事録には、常用労働者の定義変更によって、最大0.3%の影響がある可能性があることが委員によって指摘され、「それは黙って、頬かむりして、先へ進むというのはやはり難しいのではないか」と強い懸念が表明されている。  にもかかわらず、そのような懸念を「振り切って」、日雇い労働者を調査対象から除外した、というのが2月4日の小川淳也議員の指摘だった(下動画の31分30秒より)。  2月12日の衆議院厚生労働委員会でも小川淳也議員はこの日雇い除外の問題を取り上げている(下動画の37分14秒より)。根本大臣に再度、日雇い労働者を調査対象からはずしたことが2018年の賃金を高く上振れさせている事実を認めよと小川淳也議員は迫るが、根本大臣はガイドラインに沿った定義変更だと説明した上で、こう答弁している。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ●根本厚生労働大臣:  今回の定義変更による労働者数の変動は1%以内であると試算しておって、賃金の伸びに与える影響はわずかであると考えるため、常用労働者の定義の変更に伴う賃金の伸びへの影響については、試算をしておりません。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  しかし上述の様に、統計委員会の部会の専門家からは、最大0.3%の影響がある可能性が指摘されていたのだ。賃金の変動で0.3%というのは、決して小さい値ではない。  小川淳也議員はさらに追及する。統計委員会の答申では、定義変更に伴う賃金等への影響について十分な情報提供を行え、と書いてあったことを指摘し、また統計委員会の部会で、定義変更に伴う評価をしないとまずいという委員の指摘に対し、厚生労働省の当時の石原室長が「かしこまりました」「方法論も含めていろいろと検討してまいります」と答えていることを議事録から紹介し、定義変更に伴う影響を試算して国民に示すと答弁を、と求めているのだ。このように議事録で根拠を示しながら試算の実施を迫る詰め方は、とても迫力がある。映像でぜひご覧いただきたい(下動画の41分13秒より)。  そしてさらに、小川淳也議員はみずから試算した結果を示すのだ。それが下記であり、公表値(日雇い労働者を除外したもの)の323,669円に対し、日雇い労働者を従来通り含めた試算では322,100円となっている。この試算では、対前年比の実質賃金はマイナス0.3%だ。
小川淳也議員の質疑

衆議院予算委員会2018年2月12日 小川淳也議員の質疑映像より

 どういう試算であるかは、小川淳也議員の説明を聞いていただきたい(下動画の46分39秒より)。  この試算をどう評価するかと小川淳也議員は根本厚生労働大臣に答弁を求めるが、根本大臣は「精査しなければいけない」と答弁を保留する。小川淳也議員は、「精査して答えてください」とさらに求める。  そして安倍首相にも、日雇い労働者を除外したことの影響を調査しろと指示してください、と求める。「政策的、政治的に、これは極めてウオッチしなきゃいけない」数字なのだから、と。  「今回、日雇いを除いたことは重大なんですよ。おそらく、数字に相当、影響している」と迫るが、安倍首相は、「誠実な根本大臣でございますから、しっかりと誠実にお答えをさせていただきたい」と、みずからの判断を示さない。  なおも小川淳也議員の指摘は続く。日雇い労働者を調査対象からはずすとはどういうことか。下記の指摘を見れば、それが決して看過できない変更であることが理解していただけるだろう(下動画の51分33秒より)。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  今回、この勤労統計から日雇いを外したということは、つまり、こういうことです。  それは、いま大臣、答弁されたように、政府で定義をそろえなきゃいけないとか、そういう事情は受け止めますよ。しかし、これが何を意味するのかということについてなんですが、勤労統計は、景況判断をするにあたっての重要な指標なんです。だからこそ、月々の賃金の変化を追っているわけです。  その政府が関心を持つべき賃金のトレンド調査の対象から日雇い労働者を外したということなんです。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  しかし安倍首相は、「私は答えようが、専門家ではございませんから、私が今、答えられないので」と答弁を回避する。  そこで小川淳也議員は改めて根本大臣に、日雇い労働者を除外した影響の推計を行うように答弁を迫る。ポイントは2つ。「上振れした、飾り立てられた数字」じゃなくて、「国民生活の実際の様子」に迫るべきだ、ということが1つ。  そして、定義変更にあたっての統計委員会の慎重意見を振り切るにあたって、定義変更の評価をすると厚生労働省側が何度も言っていることが議事録に残っている、その「みずから吐いた言葉に対する結果責任がある」ということがもう1つだ。ここもぜひ、映像でご確認いただきたい(下動画の51分33秒より)。  根本大臣は「事実を確認した上で対応させていただきたいと思います」と最後に答弁する。小川淳也議員は「対応していただけるということで、期待して待ちたいと思います」と締めくくる。
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「日雇い除外」は巧妙に隠蔽された
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