勤労統計問題、日雇い労働者の除外の影響をなぜ政府は見ようとしないのか

一気に行われた勤労統計の手法変更

 勤労統計の問題は、明らかな不正の問題と、統計手法の変更に政治の関与があったか否かの問題が混在して複雑になっている。整理しておきたい。  勤労統計は2018年1月分より賃金水準が上振れしていることが問題になり、その解明の中で不正が明らかになった。2018年1月分からの変更は、明らかになっている限りで次の5点にわたる。このうち(A)が昨年末から明らかになった不正であり、(B)~(E)は一応、専門家の検討という正式なプロセスを踏まえた上での手法変更である。 (A)2004年から2017年まで、東京都の500人以上の事業所について、本来全数調査すべきところを3分の1程度の抽出調査に勝手に変更しており、復元もしていなかったため、賃金水準が本来より低くなっていた。これについて、2018年1月分より、断りなく3倍復元を行った。そのため、本来の値に近づけることにはなったが、前年比伸び率が実態よりも過大となった。 (B)従来、30~499人の事業所については、2~3年に1度、調査対象を全数入れ替えしていたが、それを部分入れ替え(ローテーション・サンプリング)に変更した。 (C)従来、上記(B)の全数入れ替え時に過去にさかのぼって数値を修正する「遡及改訂」を行っていたが、それを今後は行わないこととした。 (D)「平成26年経済センサス基礎調査」の結果にあわせた母集団復元を行った(ベンチマークの更新) (E)日雇い労働者(臨時又は日雇労働者で前2カ月の各月にそれぞれ18 日以上雇われた者)を調査対象からはずした  このうち、以下で問題にしたいのは(E)だ。

日雇い労働者の除外によって賃金は上がる

 2月4日の衆議院予算委員会の質疑で小川淳也議員は根本匠大臣に対し、日雇い労働者を除外したことの賃金への影響を尋ねている(下動画の31分30秒より)。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ●小川淳也議員:  この年(2018年)、もう一つやっていますよね。これまで、勤労統計は常用雇用者について調べているわけですが、常用雇用者の定義から日雇い労働者をはずしましたね。それまで、月に18日間勤務していた日雇い労働者は、常用雇用者に含めて計算をしていた。ところが、この18年1月から、常用雇用者から、この日雇い労働者を除いた。これも賃金、高めに出るんじゃありませんか? ●根本厚生労働大臣:  日雇いを除いたのは事実です。その結果、どういう影響が出るかというのは、私は、にわかには、お答えできません。 ●小川淳也議員:  わかる範囲でお答えいただければいいとはいえ、どう考えても下がるでしょう。 (注:これは「(日雇いを除けば賃金の額は)どう考えても上がるでしょう」を、言い間違えたものと考えられる) ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  そう、日雇い労働者を除外して集計すれば、公表される賃金の水準は、上がるのだ。にもかかわらず、どういう影響が出るかを根本大臣が答えようとしないのは、そこに「不都合な事実」があるからに他ならない。  「不都合な事実」とは何か。1つ目は、日雇い労働者を除外したことによって、公表される賃金水準があがるのに、それを適切に試算してこなかったこと。そしてもう1つは、日雇い労働者を除外したことを、毎月の発表資料で明示してこなかったことだ。  この日雇い労働者の除外の問題を、小川淳也議員は2月12日の衆議院予算委員会でも取り上げている。根本大臣は2月12日の答弁の中で、「統計調査における労働者等の区分等に関するガイドライン」(2015年5月19日)(出典:総務省)によって常用労働者と臨時労働者の区分を見直して統計調査同士の整合性を取ることになったのだと、繰り返し答弁している。具体的には下記の通りだ。
厚労省発表資料

出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査における平成30年1月分調査からの常用労働者の定義の変更及び背景について」(2018年4月20日)

(※出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査における平成30年1月分調査からの常用労働者の定義の変更及び背景について」(2018年4月20日)  「日雇い労働者が常用労働者の定義から外れても、臨時労働者の区分の方に移っただけなら全体としての影響はないのではないか」と思われるかもしれない。しかし大事なのは、上の小川淳也議員の指摘の、「勤労統計は常用雇用者について調べているわけですが」という部分だ。  そう、毎月勤労統計は、常用労働者に関する統計であり、臨時労働者は含まないのだ。ここが重要なポイントだ。ということは、これは単なる定義の変更ではなく、日雇い労働者を毎月勤労統計の調査対象から除外した、ということなのだ。  従来は日雇い労働者も調査対象に含め、母集団復元の際にも、日雇い労働者を含む母集団に復元していたはずだ。しかし日雇い労働者を常用労働者の定義から外したのであれば、常用労働者を調査対象とする毎月勤労統計の調査対象から日雇い労働者を外すと共に、母集団復元の際にも日雇い労働者を含まない母集団に復元しなければならないはずだ。  だとすれば、その影響によって、公表される統計数値としての賃金水準は上がるはずだ。しかし、その単純な事実を、根本厚生労働大臣は認めようとしない。認めたくないからだ。
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巧妙に隠される「不都合な事実」
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