「軍隊の廃止」が生んだ経済効果。コスタリカは次なる課題「化石燃料の廃止」へ

「軍隊の廃止」から「化石燃料の廃止」へ、受け継がれる思想

48年の内戦をドン・ぺぺとともに戦った「革命戦士」たちも式典に参加した

48年の内戦をドン・ぺぺとともに戦った「革命戦士」たちも式典に参加した

 アルバラード大統領が行なった基調講演では、大胆な国家戦略が発表された。「丸腰国家」から「持続可能国家」への前進はこれまで拙稿でも指摘してきたところだが、それがより明確かつ具体的になってきた。  以前の記事で筆者は、「国営の石油会社であるRECOPE(レコぺ)は法律によって化石燃料しか扱えないことになっている」と指摘したが、大統領は式典でこれに言及した。 「RECOPEを、ただ化石燃料のみを扱う組織にとどめるのではなく、経済の脱炭素化とクリーンエネルギーを担う現代的な企業に変革する」と明言し、立法府で議論が始まることとなった。  同記事では、持続可能国家への転換に関して、政府は「名前は出すがカネは出さない」というパターンになるのではないかという危惧を述べたが、そこから明確に一歩踏み込んだ形だ。大統領はさらに言葉を継いだ。 「70年前、私たちは軍隊を廃止できました。こんにちの私たちの歴史的責務は、世界を化石燃料使用の廃止へとリードすることなのです。これが、さらに新しいコスタリカの姿です」
革命戦士たちと大統領に挟まれ、中央で式典を見守る、ドン・ぺぺの妻であり、クリスティアーナ・フィゲーレスの母でもあるカレン・オルセン (Large)

革命戦士たちと大統領に挟まれて中央で式典を見守る、ドン・ぺぺの妻であり、クリスティアーナ・フィゲーレス氏の母でもあるカレン・オルセン氏

 70年前、ドン・ぺぺは軍隊を廃止した。しかし、それのみに着目していては、彼の革命は理解できない。彼は経済、エネルギー、社会保障、環境など、社会と世界のあらゆる分野を網羅した統合的ビジョンを持ち、改革を遂行した。軍隊の廃止はその表層の一部に過ぎない。  その娘であるクリスティアーナ氏のビデオメッセージをさらに引用すれば、それは「平和や民主主義を武器で守る代わりに国際人権法と経済発展、社会的公正と教育という旗印を掲げる」こと。  なぜなら、コスタリカ人は平和を「紛争の不在のみを意味するのではなく、何かを維持することでもなく、自然との調和のもとに“共通の善”を目指して日々行動すること」と考えるからだ。  軍隊廃止から70年後のコスタリカ人が受け継いだのは、軍隊がないという「制度」ではない。人類にとっての進化とは何かという「思想」なのである。その意味で、軍隊の廃止も化石燃料の使用廃止も、彼らにとってはひとつの軸線上に乗った、新たな未来のビジョンなのだ。 「持続可能国家」コスタリカ 第10回 <文・写真/足立力也> コスタリカ研究者、平和学・紛争解決学研究者。著書に『丸腰国家~軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略~』(扶桑社新書)など。コスタリカツアー(年1~2回)では企画から通訳、ガイドも務める。
コスタリカ研究者、平和学・紛争解決学研究者。著書に『丸腰国家~軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略~』(扶桑社新書)など。コスタリカツアー(年1~2回)では企画から通訳、ガイドも務める。
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