「軍隊の廃止」が生んだ経済効果。コスタリカは次なる課題「化石燃料の廃止」へ

軍隊を廃止した男は農民でもあり水力発電所の設計者でもあった

クリスティアーナ・フィゲーレスの平和民主主義功労賞受賞挨拶に式典参加者が聞き入った

クリスティアーナ・フィゲーレス氏の挨拶に、式典参加者が聞き入った

 クリスティアーナ・フィゲーレス氏は、ビデオメッセージの中で、「軍隊を廃止したドン・ぺぺがもし今日この場にいたなら」と前置きした上で、こう形容している。 「農夫だった彼は、発展と環境はどちらか選ぶものではなく、持続可能であってこそ真の発展であると言うでしょう。  水力発電システムの設計者でもあった彼は、経済の脱炭素化はむしろ財源や天然資源を効率的に使うことだと楽観視する機会になると説明するでしょう」  クリスティアーナ・フィゲーレス氏は、軍隊を廃止した父の革命的理想――それは新しいものではなく基本的には米国の独立革命を引き継いだものにすぎないといわれる――と、内戦の血にまみれた中米に和平をもたらした母の平和的信念を確実に引き継いでいる。  軍隊をなくし、戦争から無縁となった今、コスタリカの次の課題としていち早く持続可能な開発から気候変動へ、関心とキャリアを積み重ねていった慧眼は、軍隊廃止の土台になった長期的社会ビジョンの延長線上にあるのだ。  ドン・ぺぺは、社会、経済、社会福祉、安全保障、エネルギーなどあらゆる分野を含む国のビジョンを描き切った革命家であり、そのビジョンを各分野で実践に移した政治家だ。しかしそもそも国の基幹産業である農業に携わる労働者であり、国の電力の大部分を担い続けてきた水力発電システムの設計者でもあった。  それらすべてが統合された思想を現代に受け継ぐ人物として、パリ協定の締結に尽力した彼女ほど適当な人物もいない。それが、軍隊の廃止を現代に引き継ぐ功績を称える栄誉を受賞した理由だったのだ。

軍隊の廃止がもたらした経済効果がコスタリカを次のステージへと引き上げた

軍隊廃止が宣言された国立博物館(当時陸軍司令部要塞)の前に建つホセ・フィゲーレス(ドン・ぺぺ)像 (Large)

軍隊廃止が宣言された国立博物館(当時陸軍司令部要塞)の前に建つ、ホセ・フィゲーレス(ドン・ぺぺ)像

 クリスティアーナ・フィゲーレス氏のビデオメッセージを引き継いで再びマイクを取ったアルバラード大統領は、コスタリカ大学が行なった研究調査について言及した。軍隊廃止70周年を迎えるに当たって、軍隊の廃止がもたらした経済効果を算出したものである。その結果、現在に至るまで1人当りのGDPを1%押し上げる効果があったと結論づけた。  それは、主に以下の要因による。  第1に、軍隊の廃止によって、社会福祉改革に投入する資源が拡大したことだ。他国でも似たような社会福祉改革――たとえば医療の無償化、国民皆保険制度の導入などは行われたが、多くの国では、それらは軍隊の維持によって相殺されてしまったと同研究は結論づける。  第2に、軍隊の不在が政治的安定、つまり対話と交渉による政治的対立の超越を生み出したことだ。他のラテンアメリカ諸国では20世紀後半、政治的に不安定な状態が続き、それが経済発展を押しとどめていた。その間にコスタリカは着実に成長し、中米の最貧国から一気にゴボウ抜きを果たした。  こういったことは、コスタリカ人たちが常日ごろ口を揃えて言うことだった。ただし、筆者が『丸腰国家』を上梓した10年前には、確たる科学的根拠があった訳ではなかった。  コスタリカ大学はそれを数値で弾き出し、根拠を与えたのだ。「この70年の歩みは間違っていなかった」という自信が彼らを後押しし、経済発展の「その先」へと考えを進めさせる一因となったのである。
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「軍隊廃止」から「化石燃料の廃止」へ
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