馬の世話でたいへんなのは、ボロ(糞)掃除。少しでも放っておくと糞だらけの不衛生な環境になってしまうので、こまめに掃除しなければならない
以上のように、今回問題になった2軒以外はみな、飼育料・設備への補助金の少なさに苦しみながら真面目に世話をしているところばかり。宮古馬の飼育は、飼育者の自己犠牲の上に成り立っているのだ。
2018年の後半、新たに宮古馬飼育者として登録した20代のDさんは、「これまでなあなあに進んできた保存会のあり方が、いちいちおかしいと思える」と語る。
「いちばんの問題は、馬や飼育者に対しての保存会の対応です。貴重な“生きる文化遺産”を後世に残し、繁栄させていこうという意思がまったく見えない。飼育者に対しても『市民を代表して飼育してもらっている』という感謝の気持ちがありません。今回の報道後も、何の改善もないまま『調整中』と繰り返すだけ。事態が風化するまで時間稼ぎをしているだけに見えます」
Dさんはさらに、保存会の具体的な問題点を指摘する。
「馬を健康に生かすためには、①エサ代 ②台風でも耐えられる厩舎の建築費・修繕費 ③水道代 ④年に一度の健康診断の実施・予防接種など ⑤緊急時でも対応してくれる馬専門のドクターを待機させておくこと、などが最低限必要です。
これを行政がすべて用意して初めて、自分たちに『飼育してください』と頼むのが当たり前のことと思います。みなさん宮古馬でメシを食っているわけではなく、各自の仕事や家の事情もありながら自分の時間を割いて頑張っているわけですから」(Dさん)
現在、最多頭数を預かっている荷川取さんが、過労のため入院している。そのため荷川取牧場では、馬の世話を緊急に保存会に打診した。しかし保存会は何の対策も立てず、入院中という事態のなかで、手伝い要員を自ら手配するしかなかったという。
「こういう時こそ、保存会の存在意義があるのではないのでしょうか。各自が必死にボランティアを募るのではなく、役所や保存会がすぐさま動かなきゃおかしい。当番制でもなんでもいいので、行政が救助態勢を構えておかなきゃダメだと思う。
自分以外の飼育者はみんな高齢で、今後このような問題がいつ起きてもおかしくない。そのためにも、保存会が対応してくれる形を作ってくれなければ宮古馬は生き残れないと思います」(Dさん)
2017年10月、飼育者たちは宮古島市の下地市長に直接面会を申し込んで直談判を行い、改善策を提示している。しかし、市長からはいまだに返答がないままである。