荷川取牧場の宮古馬たちは、清潔な馬房で十分なエサをもらい、運動もできて、みな幸せそうだ
では、なぜそこまでして宮古馬の世話をしているのか? 荷川取さんはこう語る。
「なぜでしょうねえ、なんの因果か(笑)。でも、ここまで生き延びてきてくれた宮古馬を絶やすわけにはいかない。なんとか次の世代に引き継ぎたい。そして、自分たちは身銭を削るだけの暮らしだったけれど、次の世代には宮古馬でちゃんと食べて行けるようにしたい。その橋渡しのために、今は歯を食いしばって頑張っています」
馬の頭数が増えた荷川取牧場では、雌雄を分け合うための馬場や柵の整備を何年も市にかけあってきた。しかし予算は通らず、雌雄を分けることができずに、すでに近親交配が進んでいる。その他、厩舎修繕や数頭の雄馬を分ける馬場の整備などは自己負担している。
宮古馬の飼育者に対しては、1頭につき1月あたりエサ代として約8000円(5000円が保存会から、3000円ほどが馬事協会から)しか支給されていない。十分な質・量をまかなうにはエサ代8000円ではとても足りないのだという。
こうした厩舎、馬場のさまざまな修繕整備、エサ代の不足分などで、荷川取牧場では年間200万円ほどを自己負担している。土地を売ったり、私財を投じたりしながらやってきたが、それも限界を迎えている。
西平安名崎のM牧場
荷川取牧場の次に多い頭数を飼育しているのが、西平安名崎にあるM牧場だ。3頭の雌馬を飼育している。海の見える岬の先端の立地のため観光名所にもなっていて、宮古馬といえば、この牧場の映像が多い。
M牧場はもともと牛農家で、その一隅に宮古馬が放されている形となっている。しかし放牧場の面積が狭く、厩舎も満足なものがないため、台風のときなど馬は避難する場所がない。馬にとっては苛酷な状況だ。とはいえ、M牧場もほかの牧場と同じく、そこにお金をかけるだけの余裕はない。
安全で快適な飼育場を用意したくても、多額の自己負担をしなければそれらを造ることはできないという現状なのである。
残りの3軒も2頭ずつを飼っていて、どこも愛情を込めて預かっているところばかり。それぞれが大なり小なり自己負担をしながら、小屋を造って餌を買い足し、大事に育てている。