「それでも私は、言うべきことを言い続ける」<石破茂氏>

国民の諦めが最も恐ろしい

── 明らかな方針転換であるにもかかわらず、官邸の方針が示されると全員がそれに乗ってしまいます。官邸サイドの情報操作によって、そうした方向に言論空間が形成されてしまっているのではないでしょうか。 石破:そう言われても仕方ない状況にあると思います。  最も恐ろしいのは、国民の中に「どうせ何も変わらない」という諦めの気持ちが広がっていることです。国民が政治に失望した状況が続くことは危険です。  国民が「政治を変えられるかもしれない」と期待した瞬間はありました。例えば、2017年7月の東京都議選です。小池百合子都知事の都民ファーストの会の旋風が吹き、自民党は57議席から半分以上減らし23議席となる歴史的惨敗を喫しました。「自民党は支持しない」という国民の怒りの声を、この都知事選のときほど聞いたことはありません。小池さんは、同年9月に新党「希望の党」を結成し、民進党との合流を決めて、10月の総選挙に臨もうとしましたが、「全員を受け入れるつもりはない」という発言が反発を招き、野党は分裂してしまいました。その結果、急速に失速しました。そこから、国民の諦めの気持ちが一気に強まったように思います。 ── フランスでは、2019年1月に予定していた燃料税の引き上げをめぐり、マクロン政権に対する国民の怒りが爆発し、国内各地で激しい抗議デモが起こりました。日本でも、国会議員が本来の役割を果たさなければ、国民の不満が爆発する可能性があるのではないでしょうか。 石破:国民に諦めの気持ちが広がることは非常に怖いと思います。こうした状況だからこそ、まずは野党が結集する必要があります。野党がこれほどバラバラであれば、自民党内に危機感はまったく生まれてきません。相手が強くなければ、自らも強くなろうとしません。国民の不満を吸い上げるのは、野党の責任でもあります。 ── 総裁選で党員の45%の支持を得た石破さんには、権力に対して異議を唱え続けていただきたい。 石破:権力が暴走を始めたときに、誰かが言わなければ本当に国家は滅んでしまいます。国会議員には、それを言い続けなければならない責任があると考えています。  夏目漱石の『三四郎』には、三四郎が東京帝国大学に合格し、上京する際に出会った男とのやりとりが描かれています。日露戦争の戦勝によって、「これで日本も一等国へ仲間入りした」と自惚れムードに浸っていた時代です。三四郎が「これから日本もだんだん発展するでしょう」と言うと、男は「滅びるね」と語るのです。あの時代に、「滅びるね」と言わしめた漱石の洞察力はすごいと思います。  いつの時代にも、国家の危機を見抜いて、権力に直言する人は存在したのです。かつて衆議院議員の斎藤隆夫は、除名になろうとも、堂々と正論を述べました。斉藤は、昭和15年2月の本会議で、「支那事変処理に関する質問演説」を行い、除名されました。斎藤除名決議に反対したのはわずか7人でした。 ── 昭和12年には、浜田国松代議士が軍部の政治干渉を痛烈に批判し、答弁に立った寺内寿一陸軍大臣に対して「私が軍を侮辱する言葉があるなら割腹して君に謝罪する。なかったら君が割腹せよ」と詰め寄りました。 石破:こうした代議士がいたことは、後世の救いになります。誰かが言わなければいけない。もし権力の暴走があったとしても、いま声を上げたとして、議員除名されるわけでもありません。ましてや命をとられることもありません。 「冬来りなば春遠からじ」「朝の来ない夜はない」。いつか必ず状況は変わります。私は、45%の支持を頂いた自分の責任の重大さを噛み締めて、自民党のためにこそ、言うべきことを言い続けていきたいと思います。 (聞き手・構成 坪内隆彦 写真/菊竹規) 提供元/月刊日本編集部 げっかんにっぽん●「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2019年1月号

特集1【国会は死んだ】
特集2【激論 北方領土問題】
特集3【ゴーン事件が暴いた日本の病理】
【特別対談】中島岳志VS植村隆 慰安婦問題とどう向き合うか