「それでも私は、言うべきことを言い続ける」<石破茂氏>

ものを言い過ぎれば外されてしまう

── これほどの締め付けがあったにもかかわらず、党員の45%が石破さんを支持したことが重要です。 石破:党員の声が示されたのですから、その声を受けて、政権運営、議会運営、党の在り方を変える努力をしなければならないと思います。総裁選後、私を応援してくれた伊藤達也さん、中谷元さん、また白票を投じた船田元さんは、衆院憲法審査会の幹事を外れ、結果的に憲法審査会は機能停止に陥ってしまいました。自民党内における憲法改正推進本部の議論も停滞したままです。  安倍総理は2017年5月3日に、憲法9条の1項、2項をそのままにして、3項で自衛隊の存在を明記するという方針を示しました。しかし、それ以降、総理はご自身の考え方を説明していません。自民党の中で、総裁の考え方が示されなければ、それをベースにした議論はできません。  自民党が野党時代の2012(平成24年)にまとめた「24年憲法草案」では、9条2項を削除して「国防軍」を創設すると謳っていました。それは、当時の安倍先生の考え方を反映したものだったはずです。我々は、それを掲げて選挙を戦い、政権を奪還したのです。  もし変わったということであれば、この9条改正の考え方がどうして変わったのかをきちんと説明すべきですし、党内からも「総裁は説明すべきだ」という声が出なければおかしいのです。そうした声が出てこないのは、自民党内に意見を言えば外されるという恐怖感が広がってしまっているからではないでしょうか。実際、船田さん自身も「ものを言い過ぎたから外された」と語っています。ものを言わない方がいいということになってしまっているのだとすれば大きな問題でしょう。

方針の転換について安倍総理は説明すべきだ

── 安倍政権は、北方領土問題では、従来の四島返還論を転換し二島返還+αで決着をつけようとしています。 石破:これまで我々は、一貫して「小さな領土を一つでも失えば、やがて全ての領土を失う」という立場に立ってきました。だからこそ、尖閣諸島も竹島も決して譲ることがあってはならないし、不法占拠された領土については、すべて返還されなければ平和条約はあり得ないという立場をとってきました。  もしいま、本当に二島という概念があるのだとしたら、これまで、我々が貫いてきた立場は一体どうなったのでしょうか。野党がそれについて質問しても、「外交交渉については国会の場でお話できません」と言って、一切説明はなされませんでした。  また、朝日新聞が、安倍総理がプーチン大統領に対し、歯舞、色丹が日本に引き渡された後でも、日米安保条約に基づいて米軍基地を島に置くことはないと伝えていたと報じました。それについても野党が質問しましたが、安倍総理は「それについてはお話できない」ということでした。  総理は、「これまでロシアと長期にわたって交渉してきたが、1ミリも動かなかった。だから、二島でも動かすことに意味がある」というおっしゃり方をされています。しかし、平和条約を締結してしまえば、領土問題は決着が着いたものと考えるのが普通です。プラスαとして、島に自由に行き来ができるようになるとの説明もありますが、それは経済的な利益とはなりうるものの、主権の問題が置き去りにされてしまう危惧があります。  北方領土についての説明は、憲法改正と似ているところがあります。「今まで憲法は1ミリも動かなかったから、少しでも動かした方がいい」というところです。
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国民の諦めがもっとも恐ろしい
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月刊日本2019年1月号

特集1【国会は死んだ】
特集2【激論 北方領土問題】
特集3【ゴーン事件が暴いた日本の病理】
【特別対談】中島岳志VS植村隆 慰安婦問題とどう向き合うか