希望の党との合流について前原にアドバイスしたのも小沢だった。
前原は言う。
「下野してから、ある方を通じて小沢先生とお会いするようになり、何回も何回も食事をしたり、色んな話をさせていただく中で、自民党の権力者であったことも踏まえて素晴らしいアドバイスを多々いただいたし、この間も(希望の党との合流について)中身は別にして色んなアドバイスをいただいてきたのは事実だ」(参照:
「産経ニュース」2017年9月28日)
2014年6月7日、前原は橋下との将来的な合流について「(確率は)100パーセント」と述べている。「大阪都構想」については「我々の考えとほぼ同じ方向性だ」と評価。
その
選球眼の悪さはもはや芸の域に達している。
橋下は読売新聞のインタビューでポピュリズムとマーケティング選挙を礼賛(2018年1月12日)していたが、考えてみれば、民間PR会社や広告会社を利用して露骨なメディア戦略を始めたのが小沢だった。
1994年には、細川護熙を担ぎ上げて小選挙区比例代表並立制の導入と政治資金規正法の改正を断行。これで、日本の運命はおおかた決まってしまった。小選挙区制度は、二大政党制に近づく。死票は増え、小さな政党には不利に働く。政治家個人の資質より党のイメージ戦略が重要になるので、ポピュリズムが政界を汚染するようになった。また、政治資金規制法改正により、党中央にカネと権限が集中するようになった。こうして、ひたすら党にこびへつらう思考停止した議員が増えていく。下手に歯向かえば、次の選挙で公認をもらえないどころか、刺客を送られる。
これを露骨にやったのが
小泉政権だったが、民主党政権も橋下劇場も小池劇場も手口は同じである。
マーケティングによりバカの動向を探り、ルサンチマン(恨みつらみ)や欲求不満に火をつけることで世の中を動かすわけだ。「官僚や公務員はけしからん」「あらゆる規制を撤廃して、既得権益を持っている連中を懲らしめろ」と騒ぎ立て、一部の人間が別の形の利権を手にしてきた。いわゆる構造改革利権である。
小沢は
「守旧派」を仕立て上げ、小泉は
「抵抗勢力」を党から追い出し、民主党は
官僚を悪玉にした。橋下劇場も小池劇場も、どこかに悪い奴がいて、正義の味方である自分たちがそれを倒すという紙芝居だ。自分たちの足場を破壊していることに気付かない大衆はこうした公開リンチに喝采を送る。こんなことを30年も続けていれば、国が傾くのは当然だろう。
『日本改造計画』は小沢の考えをベースに、竹中平蔵ら複数の学者が書いたものだが、そこでは、
新自由主義的な経済改革、貿易自由化の推進、首相官邸機能の強化、軍事も含めた積極的な国際貢献、政権交代のある二大政党制を可能とする政治改革(小選挙区制の導入)などが提唱されている。そして現在も日本の政治はこの延長線上にある。熟議や合意形成を重視した保守政治をぶち壊し、権力を集中させ、一気に世の中を変えてしまおうという発想だ。
なにしろ、タイトルからして「日本改造計画」なのだから。ロベスピエール、スターリン、毛沢東、ポルポト……。理念による社会設計は極左の発想である。「日本をリセットするために党を立ちあげる」(小池)、「一からリセットして日本を作り直す」(橋下)、「(構造改革で)社会はあたかもリセットボタンを押したかのように」「新しい国をつくる」(安倍)。要するに、
同類のファミコン脳である。
民主党と民進党をぶち壊した前原、議会政治を破壊した小沢、政治に対する信頼を破壊した橋下。野党共闘においては、こうした連中の監視を怠らないことだ。安倍は憲法改正による参院の解体を唱えていたが、首相公選制や道州制を唱える維新と組んで改憲したら取返しのつかないことになる。
前原は国民民主党について「憲法についても単に『安倍晋三政権の下での改正には反対』ではいけません。党の案を掲げ、堂々と論点を示していくべきです」(「産経ニュース」2018年12月17日)などと述べていた。世の中に蔓延する「対案を示せ」「野党は反対ばかりだ」というテンプレートを利用した工作なのだろうが、騙されてはいけない。
万引きしたやつに「万引きするな」と言うのに、対案を示す必要はない。安倍の改憲は内容的にも論外である。野党は保守層や改憲派とも共闘し、「安倍晋三政権の下での改正には反対」でまとまるべきだ。
減税、反グローバリズム、反移民政策など野党が訴えるべき論点は山ほどある。改憲は日本の政治が「正常化」した後の話だ。(敬称略)
<文/適菜収>
てきなおさむ●1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。大衆社会論から政治論まで幅広く執筆活動を展開。近著に『
小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか』(講談社+α新書)他、『
日本をダメにしたB層の研究』『
日本を救うC層の研究』(ともに講談社)『
バカを治す』(フォレスト出版)など多数。山崎行太郎氏との対談本に『
エセ保守が日本を滅ぼす』(K&Kプレス)も好評発売中