政治家の脱走・エアコン付き・プレステ持ち込み……フィリピンの刑務所
続いて、水谷氏の「第一位」はフィリピンで一番大きな刑務所「
モンテンルパ刑務所」。
司法長官の視察に同行する形で、刑務所内の撮影が実現(写真:水谷竹秀)
収容人数はおよそ2万人。水谷氏が訪問した時は、刑務所内の不正が問題になっていた。刑務所とはいえ、内部は村のようになっており、収監者が
内部にあるテニスコートやカフェ、売店などを経営できるようになっている。
「そこにある政治家が収容されていたのですが、その
政治家がまず脱走し、その次には
中国人の麻薬王が自分だけエアコン付きの部屋で豪遊をしていたのがばれ……司法長官がこの刑務所の中を視察することになり、メディアを呼んだので僕も入れてもらったのです。上は普段、刑務所の写真なんて撮れないので、ここぞとばかりに写真を撮りまくったなかの1枚です。僕もそれ以前に取材のため何回か通っていました。日本人の収容者も大体10人前後いるんですよ。覚せい剤とかレイプ、詐欺などで捕まった日本人が収容されています」(水谷氏)
囚人は全員オレンジ色の囚人服を着ているが、背中に収容者であることを示す単語が書かれている。水谷氏も1着もらうことができたとか。
また、刑務官への賄賂次第で脱走や脱獄も可能。売春婦も外から入れるようになっており、酒も飲める。
日本人の収監者はプレイステーションを持っていたという。そうした、あまりにも自由な状況が目に余るようになり、司法長官が視察に訪れるまでになったという。
それぞれが紹介した「さいはて」スポット、決して行きたいとは思えないが安田氏によると「これらは時間がたてば消滅する箇所がほとんど」だという。ただ東南アジアにしろ中国にしろ、経済発展が進むたびに新たな「さいはて」スポットが出現すると思われる。
西谷氏も、「中国はいろいろ問題ばかりの国ではあるけど、新しいものをどんどん取り入れてくという意味では素敵です。スマホでタクシーは呼べるし、金も払えるし。日本に戻ってくると、なにかと不便でいらつくことも多いです。自動運転などの先進技術を日本よりも先に取り入れている。未来は、IT技術がありつつ、前近代的な、江戸時代のような検閲をする不可思議な国になると思います」と予測する。
水谷氏は、「14年前にフィリピンに行ったときは、飛行機に乗っている日本人はおじさんばっかりだった。それが、4~5年ぐらい前から、若い人がフィリピンに来るようになった。英語留学が盛んになったのもありますが」とその変貌ぶりを語る。
フィリピンだけではなく、バンコク等も同様。フィリピンは日本の「昭和」のようだと言われるが、いずれ日本と変わらない様子になるだろうと話す。
日本もまた、一部の外国人から「さいはて」として扱われることもある。
「さいはて」はやがて移ろうからこそその希少価値があるのかもしれない。そんなことを感じさせるトークセッションであった。
【PROFILE】
安田峰俊(やすだ・みねとし)
1982年、滋賀県生まれ。ルポライター。立命館大学人文科学研究所客員研究員。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。中華圏の社会・政治・文化事情について、取材を行っている。著書に『
和僑』、『
境界の民』など。『
八九六四』にて城山三郎賞を受賞。
西谷格(にしたに・ただす)
1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーに。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に『
この手紙、とどけ! 106歳の日本人教師が88歳の台湾人生徒と再会するまで』『
ルポ 中国「潜入バイト」日記』。
水谷竹秀(みずたに・たけひで)
1975年、三重県桑名市出身。上智大学外国語学部卒。フィリピンと日本を拠点に活動するノンフィクションライター。『
日本を捨てた男たち』で開高健賞受賞。著書に『
脱出老人』『
だから、居場所が欲しかった。』など。