ブラジルで極右大統領が誕生。周辺諸国の首脳陣やメディアはどう見ているのか?

photo by Editorial J via flickr (CC BY-ND 2.0)

 ラテンアメリカで最大の経済大国ブラジルの大統領に来年1月から、「トランプ以上」と言われる極右で排外主義者、セクシストの大統領が就任することになった。ジャイル・ボルソナロ、63歳である。(参照:「ブラジルに人種差別主義、同性愛嫌悪、権力主義の『カリオカのトランプ』極右政権誕生の可能性高まる」、「周辺諸国も危ぶむブラジル大統領選極右候補、ボルソナロの大統領への道がまた一歩進む」、「迫るブラジル大統領選。トランプより危険な極右差別主義候補が台頭した理由」)

「カリオカのトランプ」、ボルソナロという男

 ボルソナロ自身が大統領になることを目指すことに決めたのは2014年末であった。  当時はジルマ・ルセフ大統領政権下で、彼は退役軍人から転身して1991年に下院議員となったが、20年以上の議員としては目立つ存在ではなかった。有力議員100人の中にもランキングされていなかった。何しろ、長年の議員ではあるが、彼が立案した190の立法の中で議会で可決承認されたのは僅かに2案だけである。その内の32%が軍隊そして軍人に関係したものであったという。  しかも、所属政党を8回も変えているのである。一匹狼的な議員である。しかし、それでも、2014年の選挙では歴代最高の得票数で当選している。(参照:「El Pais」)  そんな彼が議員として目立ったのは、1964-1985年まで続いた軍事政権を称える発言や男性優越主義、ホモファビア、人種差別主義、武器の販売の自由化などに関係したことを歯に衣着せずに容赦なく発言することであった。その一方で家族愛や宗教などを尊重する姿勢も示している。まるでどこかの国の極右カルト勢力とよく似ている。

大統領に成ることを導いた「2つの出来事」

 ボルソナロが大統領になることを導いた要因には二つあるように思える。ひとつは2003年から2016年までルラ・ダ・シルバとジルマ・ルセフによる13年続いた左派の労働者党政権による弊害と、もうひとつは今回の大統領選挙戦中にボルソナロが刃物に刺されるという出来事であった。 「El Confidencial」紙によれば、13年間続いた左派政権に辟易していた市民の声として以下のような発言を上げている。 「労働者党はもう御免だ。彼らは盗み過ぎた。この赤政党がまた政権に就くのはもう我慢できない」 「(前の選挙では)ルラに投票した。貧困者の我々の生活が向上すると思ったからだ。しかし、どこにその向上を見ることができる? 誰が自分たちの子供を大学に行かせることができる? 行商人の給料で医療保健費を誰が払うことができるのか?」 「この30年投票したことがなかったが、今回はボルソナロに投票することの決めた。労働者党が政権を政権に復帰させないためだ。彼らは我々の国をみすぼらしいものにしてしまった。これほどひどい状態は見たことがない」  市民が労働者党の政治にうんざりしているのは、彼らの生活が景気の低迷で後退しているという一方で、ルラから始まって労働者党が汚職に染まり切っているということである。汚職というのはラテンアメリカでもつきもので、ブラジルの場合は議員の60%が汚職罪に問われているというのがジャーナリストの調査で明らかにされている。(参照:「El Espectador」)  また、ボルソナロが刃物で刺されたという事件には神のご加護があったと指摘する人物が現れるなど、あたかも「ドラマティック」なものとしてその事件が作用した面もある。  15年来ボルソナロと親交の深い下院議員であるオニックス・ロレンゾニは、チリの代表紙『LA TERCERA』(10月28日付)のインタビューの中で、「我々(選挙)チームの全員が信者だ。ボルソナロが生きているのも神のご加護があったからだ。ボルソナロの腹部にもう1センチ深く刃物が入って、応急治療がもう3分遅れていれば、彼は死んでいた」と語っている。
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ウルグアイ前大統領ホセ・ムヒカは遺憾を表明
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