国会審議の中で政府側は、これは望む人のための制度であって望まない人には適用されないのだと繰り返し主張してきた。上の6月26日の石橋議員の質疑に対しても、安倍首相はこう答弁している。
【安倍晋三内閣総理大臣】
”本制度は、望まない方には適用されることはないため、このような方への影響はないと考えています。このため、適用を望む企業や従業員が多いから導入するというものではなく、多様で柔軟な働き方の選択肢として、整備をするものであります。”
高プロは事業場における労使委員会の5分の4以上の賛成による決議がなければ導入されないし、本人同意がなければ適用できない。だから望まない人には適用されない、というのが政府の主張だが、だとすれば、この制度がどのようなものであるかの正確な周知は不可欠だ。しかし、その周知のためのリーフレットが、これなのだ。
もう一度、リーフレットを見てみよう。この説明では、高プロが労働基準法の労働時間規制の適用除外であることが読み取れない。
「その働き方」とあるが、それが
どういう働き方であるかが、明記されていないのだ。
厚労省作成のリーフレットより
「現行の労働時間規制から新たな規制の枠組みへ」と書かれてあるだけで、時間外・休日労働を36協定の制限なく行わせることが可能となることや、残業しても残業代が支払われないことが、
この説明では読み取れない(なお、高プロでは、そもそも8時間という法定労働時間の枠組みもなくなるので、残業という概念も残業代という概念もなくなる)。
これも国会パブリックビューイングで取り上げた場面だが、6月7日の参議院厚生労働委員会で福島みずほ議員は、高プロを望む労働者の声として国会に示されたヒアリング結果に関して、ヒアリングの際に、対象者に対して高プロの本質を伝えていたのかと問うた。
【福島みずほ議員(社会民主党)】
”大臣は、高度プロフェッショナルに関して、ニーズをどうやって把握したかということに関して、衆議院の厚生労働委員会で、「十数名からヒアリングを行いました」と。これが根拠になっていたんですよ。唯一の根拠ですよ、唯一の。唯一、話を聞いたという根拠がこの12名で、それがどうして(今年の)2月1日なんですか。しかも、これ漠然としていますよね。
例えば、今年、「様々な知見を仕入れることが多く、仕事と自己啓発の境目を見付けるのが難しい」。何でこれが高度プロフェッショナルを望む声になるんですか。誰も、高度プロフェッショナルの具体的な中身を聞いて、それを支持すると言っている中身ではないですよ。
高度プロフェッショナル法案の一番重要なこと、「労働時間、休憩、休日、深夜業の規制がなくなります。そういう働き方を望みますか」と聞いたんですか。”
ニーズを聞き取るというのなら、制度の概要を説明するのは当然のことだ。しかし、「高度プロフェッショナル法案の一番重要なこと、『労働時間、休憩、休日、深夜業の規制がなくなります。そういう働き方を望みますか』と聞いたんですか」という問いを福島みずほ議員が2度繰り返したにもかかわらず、山越労働基準局長(当時)は、「いずれにいたしましても」の一言で、その問いを無視した。
不都合な事実は認めない。説明しない。それが高プロに関して国会で政府が見せた一貫した姿勢だ。そしてその姿勢が、新制度を説明する
厚生労働省のリーフレットでも受け継がれているのだ。
あの国会審議を経て、このリーフレットであるというのは、
意図的な欺瞞であると言わざるを得ない。このような不誠実な姿勢で制度周知を図ることは、とうてい認められない。
厚生労働省にはリーフレットの作り直しを求めたい。必要なのは、欺瞞に満ちた説明ではなく、適切な説明による注意喚起だ。
<文/上西充子 Twitter ID:
@mu0283>
うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『就職活動から一人前の組織人まで』(同友館)、『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「
国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。『
緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆。