10年後には所有物件数を5万世帯に増やすことを目指している大川氏。その頭に思い描いているのは、賃貸オーナーの枠組みを大きく超えた構想。なんと“家賃ゼロ”の賃貸住宅を姫路の地域一帯で運営する計画があるという。
「現在、姫路に150棟ほどの物件を所有していますが、これらの物件の屋上にWi-Fiのアンテナを立てて姫路市の一部エリアに無料の通信網を敷こうと考えています。このWi-Fiを使う際、一日1回起動する専用アプリに30秒程度の広告を流し、この広告収入によって物件の入居者の家賃をゼロにするという仕組みです」
賃貸オーナーでありながら、家賃ゼロを目指す。一見矛盾した考えのようにも思えるが、これは日本社会の先行きをしっかりと見据えたうえでの大川氏の戦略である。
「少子高齢化が続き、東京一極集中に向かうなか、このまま進めば最も割を食うのは私のような地方の賃貸オーナーです。そこで、どうすれば姫路に人を呼び込めるかを考えた結果、家賃と通信費をゼロにすることを思いつきました」
姫路に人が集まれば、賃貸オーナーである大川氏の収益は右肩上がりに増えていく。さらにこの収益の使い道として、大川氏はスポーツ施設の建築を構想している。
「今は将来の夢を持てない子供たちが増えていますが、不動産のオーナーとして、彼らが大きな夢を持てるような場所をつくっていきたいというのが私の願いです」
たった1棟の物件から社会に影響をもたらす不動産王になった大川氏。スケールは規格外だが、その投資哲学から学ぶことは多い。
【大川護郎氏】
’72年、兵庫県姫路市生まれ。著書に『
新聞少年が一代で4903世帯の大家になった秘密の話』がある
文/小林義崇 撮影/濵口良太