東京電力「トリチウム水海洋放出問題」は何がまずいのか? その論点を整理する

今後、「トリチウム水」(ALPS処理水)はどうなってしまうのか?

 ここで福島第一の「トリチウム水」の現状を見てみましょう。  多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会説明・公聴会説明資料pp.5によれば、構内のALPS処理水の平成30年3月時点での状況は以下のようになっています。 タンク貯蔵量:約105万m3 タンク建設計画:137万m3(2020年末) ALPS処理水増加量:約5~8万m3/年 ALPS処理水のトリチウム濃度:約100万Bq/L(約0.02μg/L) タンク内のトリチウム量:約1000兆Bq(約20g)  そして、この発表資料にはありませんが、報道されたように「トリチウム水」(ALPS処理水)には、トリチウム以外のベータ核種が含まれており、全ベータ核種合計(トリチウムを除くベータ核種合計)は100Bq/Lとされてきています。しかし、実際には100~1000Bq/Lでかなりの揺らぎがあるようです。  先にも申し上げたように、この全ベータ核種合計を表に載せないこと自体がきわめて不誠実です。  次にALPS処理水とSr処理水のタンク容量の推移の実績と予測を示します。
福島第一 タンク建設の見通し

福島第一 タンク建設の見通し/多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会説明・公聴会説明資料 pp.25

 これらから、2年後にはALPS処理水は130万トン、トリチウムの全放射能量は1.3PBq(ペタ=千兆)と見積もられます。  福島第一原子力発電所は、事故前にはトリチウムを年間で2TBq(テラ=1兆)放出していましたので、通常運転時の500年分のトリチウムがタンクの中に存在することになります。現在も事実上の目安とされている福島第一の事故前のトリチウム放出管理目標値は、22TBqでしたので、この管理目標を遵守すると単純計算で約60年、実際にはトリチウムの半減期が約12年ですので、2020年以降の増加量も勘案して環境放出には約25~30年かかることになります。ただし、地下水などの経路からのトリチウム放出の分を加えなければいけませんので、実際には30~40年かかることになります。  国と東電は、7年間で海洋放出を完了するつもりですので、これもつじつまが合いません。  また、トリチウム以外の全ベータ核種(全ベータ核種)の濃度を保守的に500Bq/Lと仮定すると、全ベータ核種の放射能量は、0.65TBqとなります。福島第一の事故前のトリチウム以外の液体廃棄物の放出管理目標値は、1年あたり0.22TBqでしたので、こちらは地下水経路も含めて10年程度で十分でしょう。  結局、ALPS処理水を事故前の環境放出基準を遵守して海洋放出する場合40年程度の期間を要し、結局今の小型タンクでは耐久性や管理の煩雑さから維持できなくなると考えられます。  トリチウム放出管理目標値を変更するのならば、それは別に審査と市民による合意の手続きを経ねばなりません。また、放射性物質を生産を行わない陸上施設から海洋に放出しますので、ロンドン条約との整合性をとる必要があり、条約締結国からの合意を得る必要があるでしょう。この環境基準を大きく緩和するという手続きについて政府、東電はたいへんに軽く見込んでいると思われます。過去の公害、鉱毒などによる環境破壊と被害の歴史を省みれば、とても考えられない行為です。  もっとも、PWR発電所では、年間200TBq前後のトリチウム放出管理目標値を設定していますので、正規の手続きを経て市民の合意を得るのならば、トリチウム放出管理目標値の変更は不可能ではありません。  巷に見られる、薄めて捨てれば無問題という意見にも公害防止という観点から、貯めた汚染物質を薄めれば捨ててよいという考えには強い違和感を持ちます。軽々に行えば、たいへんな悪しき前例となるでしょう。  私は身近に土呂久鉱毒事件水俣公害カネミ油症事件を見て育ちましたので、21世紀にもなってこのような身勝手なことを公害発生企業とその共犯関係にある国が行おうとすることには恐怖すら感じます。
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政府・東電が取るべき道とは?
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