大阪府民・大阪市民は府知事や市長がどのようなものを大阪湾に流そうとしているのか、知っておいたほうが良い。photo by ISO8000 / PIXTA(ピクスタ)
「トリチウムの生物への影響は少ない」は確かなのか?
東電福島第一原子力発電所、ALPS不完全処理水問題について昨年から通算三期六回目(※本サイトでご覧の場合、記事欄外下記に過去記事をまとめました)となりました。今回は、
前回に引き続きトリチウムとは何かについて解説します。
【前回記事】⇒
海洋放出反対派も賛成派も知っておきたい「トリチウム」の基礎知識
今回は、
トリチウムの生物への影響について概説します。あくまで入り口としての概説ですのでより詳しくは、レファレンスほかより詳細な資料をご覧ください。
トリチウムについてはその生物、人体への影響について放射性物質の中ではかなり詳しく研究がなされてきたもので、繰り返し述べてきたように
影響は90Sr(ストロンチウム90)などに比すれば遙かに小さいことは常識として良いです。それが故に、原子力・核開発においてトリチウムは莫大に発生し、処分法がないにもかかわらず一定の合意の元で海洋、内水(池や河川など)、大気への排気が認められてきたと言えます。
一方で、近年の研究の進展によって従来見落としていた生物への影響があるという指摘もあり、条件、化学形によっては、
科学的合意のやり直し、新たな科学的合意の必要性が生じているとも考えられます。
なお、ここでは純粋なトリチウムについて概説しますが、東京電力福島第一原子力発電所で問題となっている「処理水」=「
ALPS不完全処理水」について述べるものではありません。100万トン余りの「処理水」なるもののうち約80万トン存在する「
ALPS不完全処理水」については、
一般の告知限度を大幅に超える放射能汚水として議論せねばなりません。
トリチウムの放射能は、たいへんに弱いのですが、一方でその多くは
HTO(トリチウム化水)として存在しますので、きわめて人体に取り込まれやすく、代謝系に入り込みますが、
速やかに汗や尿によって体外へ排出されます。一方で、
有機結合型トリチウム(Organically bound tritium; OBT)と言う形でも存在し、こちらは体内に長く滞在します。なお、水素状トリチウム(HT)は、体内に吸収されません。
トリチウムの生物半減期を列挙するとこうなります。
・トリチウム(HT):肺から吸収されない
・トリチウム水(HTO):生物半減期は平均10日
・有機結合型トリチウム(OBT):平均40日だが、ごく一部は1年
放射性物質が人体に与える影響を評価するには、放射能量を表すBq(ベクレル、1秒あたりの壊変数)をSv(シーベルト、線量当量)*に変換する必要がありますが、それは「実効線量係数」(Sv/Bq)としてそれぞれの放射性物質について化学形、三態(気体、液体、固体)、摂取経路などによって細かく定められています。
<*よく間違われるが、Svは物理的単位ではなく、社会学的単位である。Gy(グレイ)やBqといった物理単位に、放射線荷重係数や実効線量係数をかけることで算出するSI組立単位である。Svは、重要な単位であるが、社会的要求によって科学的、人文社会学的、医学的、政治的、経済的合意の元で定められた単位である。そのため、ICRP(国際放射線防護委員会)によって概ね20年弱の間隔で科学的、医学的、疫学的知見の変化、社会的要求の変化に従い、改訂が行われている。Svのように、単位に一意性、恒久性がないものは、例え組立単位とはいっても異例と言える>
トリチウムは原子力・核施設から大量に発生し、
分離・除去が実用という意味ではきわめて困難*ですが、一方できわめて弱いβ核種であること、その大部分を占めるHTOとしては、体内に取り込んでも速やかに排泄されること、特定の体組織に集まらないこと、
生物濃縮しないことから、放射毒はきわめて微弱であると考えられてきました。
<*PHWR(加圧重水炉)であるCANDU(カナダ重水ウラン)を採用しているカナダと韓国では、大量に発生するトリチウムを除去し定着させる研究開発と実用化が最も進んでおり、とくにカナダでは一部実用化している。しかし、福島核災害発生トリチウムは桁違いに膨大であり、カナダの技術でも処理速度が少なくとも二桁は足りない。日本国内での開発も同様であり、カナダより大きく劣り、後進的であることに変わりない。また、キュリオン社などが日本政府に提案した技術はあるが、見積もりの段階で中型原子炉が一基作れるほどの費用を要する>
実効線量係数を図に示しましたが、これを見れば分かるように、例えば極端な例でプルトニウム239とトリチウムを比較すると、100倍から100億倍の差でトリチウムは影響が小さいです。セシウム137と比較してもトリチウムは100倍から1000倍の差で影響が小さいことが分かります。
トリチウムの放射毒は、その化学形によって大きく変化し、マウス胚子では、T-チミジンやT-アルギニンといったDNAヌクレオチドやアミノ酸では、HTOに比して1000倍の放射毒性が知られています。これらのことから、トリチウムの放射毒としての標的はDNAと言うことが分かっています。