パチンコ店ほどではないにせよ、今後増えそうな「新参者」物件が「書店・CD店」や「レンタルCD・DVD店」跡だ。
出版不況でその数を減らしつつある書店跡への出店は、JR長野駅前の「平安堂」跡(長野店)や、なんばグランド花月前の「ジュンク堂書店千日前店」(なんば千日前店)など、とくに好立地な店舗が多くみられる。
淳久堂書店の旗艦店跡に出店したドン・キホーテなんば千日前店。この建物は吉本興業のエンターテイメントビルとして開業した経緯があり、NMB48劇場も入居する。エンタメ性の強いドンキ出店は運命的だった?
CD店やレンタル店に関しては、とくに最大手の「TSUTAYA」が大規模な店舗閉鎖に乗り出しているため、各地で物件がダブついている。
例えば、昨年6月に閉店した福岡市中心部・天神のTSUTAYA旗艦店「TSUTAYA福岡天神店」跡には、僅か5ヶ月後にドンキ福岡天神本店が居抜き出店。こうした好立地の大型物件を押さえ、素早く出店する様は「さすがはドンキ」と称賛したくなるほどだ。
TSUTAYAの福岡旗艦店跡に出店したドン・キホーテ福岡天神本店。TSUTAYAは大量閉店の真っ最中で、好立地物件はドン・キホーテも注目しているはずだ
大手書店・レンタル店跡は、量販店やパチンコ店と比べると面積が小さいことも少なくない。その一方で、多くが駅前やロードサイドの好立地にあるため、営業時間が長いドンキにとっては魅力的な物件であろう。
名建築も“まさか”のドンキ化……インパクト大の「イロモノ物件」も
ここからは趣向を変え、何かと特徴のある「イロモノ物件」を見ていこう。
まず紹介するのが、ドンキで最も有名な旗艦店の1つ「新宿歌舞伎町店」だ。靖国通り沿いからゴジラ像を望む位置にあるこの店舗、一見普通のビルに出店しているようにも思えるが、その歴史は決して普通ではない。なんと「大手銀行跡」なのだ。
同店はかつて大和銀行新宿支店(現・りそな銀行)として営業していたが、金融ビッグバンによるメガバンクの誕生を前にして閉店。跡地に出店したドンキは、お得意の24時間営業で眠らない街・歌舞伎町の消費を支えてきた。
近年、銀行業界では合併と支店の統廃合が頻繁に行われており、大都市の一等地に大型の空きビルが出ることも少なくない。こうした銀行跡のドンキは他にも「西新井店」や「高田馬場店」など都市部を中心に見られるが、お堅い金融業から夜を彩る華やかな業種への転身は、松本清張の名作「黒革の手帖」の世界さながらだ。
ドンキの「顔」とも言える旗艦店・新宿歌舞伎町店は「大和銀行」跡に出店。24時間営業で、眠らない街・歌舞伎町の消費を支え続ける
見た目のインパクトでは、那覇市の繁華街にある「国際通り店」を忘れてはならない。
こちらは2013年に閉店したファッションビル「那覇オーパ」(旧フェスティバルビル)跡に出店した店舗。1984年竣工のビルを設計したのは、かの有名建築家・安藤忠雄だ。
この建物の最大の特徴は沖縄特有の建材「花ブロック」を用いた外壁で、その他にもビルの中央を貫く「吹き抜け」、屋上の「ガジュマル」の大木など、随所に凝った造りが施されている。しかし、2013年に出店したドン・キホーテは外観を「ドンキカラー」に塗り変えるなど、あくまで「通常運転」。那覇唯一の店舗かつ大型店とあって店内は地元客や観光客で連日賑わいを見せているが、「安藤建築の良さを活かせていない」として、かつてのファッションビル時代を懐かしむ声も少なくない。
建築家・安藤忠雄設計のビルに居抜き出店したドン・キホーテ国際通り店。観光客も多く賑わいを見せるが、かつての内装を懐かしむ声も
最後に紹介するのはその「歴史」も「見た目」もかなり強烈な物件だ。
かつて団体旅行の聖地だった石和温泉(山梨県笛吹市)のロードサイドに立地する「いさわ店」(2003年出店)は、「モスク風」のド派手な外観で訪れた客のド肝を抜く。しかし、それだけで驚くなかれ。建物の前身は性の殿堂「秘宝館」なのだ。
いさわ店の前身であるオトナの博物館「元祖国際秘宝館石和甲府館」は、団体旅行ブーム真っ只中の1981年に開館。しかし、僅か5年後の1986年に閉館し、その後はホームセンターを経てドンキとなった。
見る物全てをショックに陥れる外観と、「性の殿堂」を「驚安の殿堂」に変えてしまったインパクトはあまりにも絶大で、いさわ店こそが「イロモノ」居抜き物件の頂点に立つ店舗であろう。
とにかくド派手、見るものを混乱に陥れてしまうドン・キホーテいさわ店。「驚安の殿堂」は「性の殿堂」の強烈なDNAをうまく受け継いだ、のかもしれない。かつての名残は…訪れてみてからのお楽しみだ
定番からイロモノまで、実に奥の深い「ドン・キホーテ居抜き物件」の世界。もちろん、今回紹介した以外にもユニークな居抜き物件は多数存在する。あなたも近所にあるドンキの「前世」を調べてみてはいかがだろうか。
なお、こうしたコストを抑えた居抜き出店は同社の「フットワークの軽さ」にも大きく影響を与えており、昨年10月に僅か8ヶ月で閉店した「神保町靖国通り店」(ゴルフ用品店跡)のように早々と店じまいする例や、ヤドカリのように更に好立地にある「別の空き店舗」へと移転する例も少なくない。気になるドンキの「前世めぐり」はお早めに。
<取材・撮影/淡川雄太 若杉優貴 文/佐藤庄之助(都市商業研究所)>
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「
@toshouken」
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