3時間の間に、放流量が急上昇
視覚的に分かりやすいように、7月6~7日のダムへの流入量と放流量をグラフ化してみた(国土交通省のウェブサイトでグラフ化できる)。まず目につくのは、7日午前3時ごろから6時ごろにかけて、ダムへの流入量を表す黒い線と、ダムからの放流量を表す赤い線が描く「直角三角形」だ。
午前3時前から黒い線(流入量)が右肩上がりになる中、赤い線(放流量)は横ばいのラインを保っている。その間に、緑色の線(貯水率)が一気に上がり、午前6時ごろには100%に達してしまった。そこで、放流量のグラフが直角に上昇するほど、急激に大量の水を流し始めたということになる。放流量の増加のほうが流入量の増加より急激だったということを、この直角三角形は表している。
このグラフから、以下のポイントが浮かび上がってくる。
第一に、この「直角三角形」、つまり流入量と流出量のズレが現れる午前6時過ぎ直前の約3時間以外は、流入量と流出量がほぼ変わらないということだ。これでダムの治水効果があるとするならば、国土交通省の担当者自身も認めた「避難の時間を稼ぐこと」くらいしかない。
しかもそれは、深夜から早朝にかけてのわずか3時間だ。果たしてそのような操作が合理的だったのかどうかが、第一に検討の対象になる。それ以上に、そもそも3時間で満杯になるダムに治水効果があると定義できるのかまで、疑問は広がっていくだろう。
水をためておく「利水目的」と水害を防ぐ「治水目的」との矛盾
第二に、たとえ避難の時間を稼げたのだとしても、「放流量を急激に増やしたことで、被害が拡大したのではないか」という疑念が浮かんでくる。
7日午前6時の放流量は毎秒330トンだったのが、1時間後の放流量は毎秒1450トンと、5倍近くに跳ね上がっている。先述の「直角三角形」が示すのは、「一気に放流されたことで水が下流に流れきらず、あっという間に越水して急激かつ深刻な氾濫を招いたのではないか」という疑念だ。この検証が必要だろう。
第三に、貯水率は最低でも70%をキープしていたということである。「経験のないような豪雨」が襲ってくる前に、もっと貯水率を下げておけなかったのかという命題も突きつけられている。
そもそも、野村ダムは灌漑・水道用水にも使う多目的ダムだ。利水目的であれば水は貯めておく必要があるが、治水目的ならできるだけ空にしておかねばならない。つまり、もとから矛盾した目的を持っていたといえる。全国に多く存在する、そしてこれからも作られようとしている多目的ダムのあり方も問い直すような検証にするべきだろう。