ダム担当者「野村ダムの放流は住民の安全を確保するための操作だった」
こういった声に対する、ダムを管理する側の言い分を聞いてみよう。国土交通省・四国地方整備局は、「今回の雨に備えてあらかじめダムの水位を下げる操作を行なっていたが、実際の雨量は想定外だった」という。そこで、午前6時20分に、ダムへの流入量と同じだけ放水する「異常降水時防災操作」を開始したと説明している。
同局河川部の長尾純二河川調査官は、記者会見でこう説明した。誤解を避けるため、一言一句書き起こしてみる(カッコ内は誤解を避けるため筆者が挿入)。
「ダムの容量は無限ではなく限りがありますので、降水量が甚大で今回のように長期化すれば、満水に近づいてくるので、だんだん調節できる量が少なくなってきます。最終的には、流入量とほぼ同じような量を流すようになりますけども、この操作でも、ダム(への流入量)より(ダムから放流する)流量が大きくなることはありませんので、当然ながら、ダムが被害を拡大するといったことはありません。流域の安全を確保するための操作ということをご理解いただければと思います」
前日同時刻の10倍の量を一気に放流、5人の死者を出した大惨事との関係は!?
「ダムの放流で氾濫した」とする住民の思いと、「放流は流域安全のためだった」とするダム管理者の考えの間には、大きな乖離がある。そこで、野村ダムにまつわる当時のデータを検証してみたい。
降水量、ダムの貯水率、放流量などのデータは
国土交通省の「川の防災情報」(https://www.river.go.jp/)のダムのサイトで確認することができる。
7日午前3時から3時間の間に、貯水率が75%から100%に急上昇した
毎時ごとのデータを確認すると、7月5日午前までは貯水率85%、放流量が毎秒26トン強で推移している。同日正午前後から毎秒90トン以上を放流しはじめ、貯水率は同日深夜までに75%ほどへ低下した。
6日未明から雨が徐々に強くなっていく。6日早朝から放流量を段階的に増やし、同15時くらいには毎秒260トンほどを流して、貯水率は一時70%を切るところまで下がった。その後7日午前3時ごろまでは、貯水率は75%以下をキープしていた。
数字が急変するのはその直後だ。
午前2時を過ぎたあたりから降水量が増え始め、1時間に30mm近くに達する。それと同時に貯水量が急上昇し、わずか3時間後の午前5時20分には100%に。その1時間後、「異常降水時防災操作」、つまり安全基準を無視した大量放流を開始した。
7時50分には毎秒1797トンという、安全とされる基準である300トンの6倍以上もの量を放流している。その結果、午前6時半ごろにはダム直下の西予市野村町で肱川の氾濫が始まり、あっという間に深さ最大5mもの浸水が広がって、同町だけで5人の死者を出す惨事となってしまった。
7日午前7時から8時にかけて、1時間あたりの放流量は毎秒約1500トン。前日同時刻の10倍だ。先の国土交通省の見解は「ダムが被害を拡大させることはない」ということだが、本当にダムの放流と被害は関係なかったのだろうか。