―――国会は国権の最高機関だ。内閣の下請けじゃない。一連の文書の改ざん、廃棄、隠蔽(いんぺい)。行政府が立法府を一年間だましてきた。そういう意味では、国民の代表たる国会の権威がないがしろにされている。
これは、森友学園と加計学園をめぐる公明党の漆原良夫顧問(元衆議院議員)の発言です(
朝日新聞2018年6月11日)。
漆原顧問の発言どおり、
「モリ・カケ」疑惑は、内閣ガバナンスにかかわる本質的な問題です。森友疑惑では、首相の支持者に対する国有地の値引き払下げと、それに伴う国会での虚偽答弁、公文書改ざん、改ざん文書の国会提出などが問題になっています。加計疑惑では、首相の支持者に対する特例的な認可と、それに伴う国会での虚偽答弁、情報隠し、公的な記録と関係者の記憶の食い違いなどが問題になっています。
いずれも、内閣が国会の信任にもとる行為をしていないか、内閣が国会での説明責任を果たしているのか、内閣が行政を統治できているのかという、
日本の統治構造への信頼を揺るがす問題です。一政治家をめぐる疑惑にとどまらないのです。
そのため、政府与党が疑惑の隠ぺい・矮小化・幕引きを図っても、そうはなりません。内閣の本質的な問題ですから、野党やメディア、世論が追及を止めても、政権の体質は、別の大きな問題を引き起こすことになりかねません。
一方、「野党・メディアがだらしない」と、内閣の問題を「野党・メディアの能力」問題に変換する議論も提起されています。私見では、野党やメディアは「モリ・カケ」疑惑で、過去の疑惑追及に優るとも劣らない能力を発揮しています。野党の「合同ヒアリング」とそのネット公開、メディアやジャーナリストの報道は、職業的良心の発露です。
むしろ、
不思議なのは与党議員の姿勢です。
議院内閣制は、内閣が国会の信任にもとる行為をしたとき、支持基盤である与党議員が内閣を倒すことを想定しています。それにより、国政の停滞を阻止し、内閣の運営に緊張感をもたらすのです。
与党議員から、漆原顧問のような声がたくさん挙がり、国会の委員会や与党の会議の場で、内閣を追及する動きが出てくれば、膿は摘出できるのです。実際、過去の政治改革や薬害エイズ問題では、与党が政府追及の先頭に立ちました。
こうした動きにつながるのか、注目されるのが、自民党の小泉進次郎筆頭副幹事長です。6月6日の記者会見で、加計学園疑惑をめぐって「どう考えても『愛媛県にうそをついた』というのはおかしい。(国会に)特別委員会を立ち上げてほしい」と発言しました(
朝日新聞2018年6月6日)。
国会の特別委員会で「モリ・カケ」疑惑を調査するというのは、一見するといいアイデアです。けれども、気をつけなければ、単なるガス抜きとなる懸念もあります。なぜならば、
国会の委員会運営は委員長と多数派理事によって主導され、彼らが与党によって占められていれば、関係者の召致はおろか、委員会の開催すら困難になるからです。
小泉副幹事長などの与党議員が、本気で「モリ・カケ」疑惑を徹底解明するならば、次のような調査体制を国会に設けることを提案します。
・衆参の国家基本政策委員会の下に、衆参合同の小委員会を設ける。
・小委員長を野党議員とし、委員構成を野党5党の過半数とする。
・小委員長に小委員会の開催と国政調査に関する委員長権限を全面委任する。
・閉会中の審査を可能とし、一定期間後に報告書を提出・公表する。
・インターネット中継と提出資料の公表を原則とする。
「モリ・カケ」疑惑は、内閣の本質を問う問題だからこそ、真正面から全力で解明しなければ、国政の重大な課題にも悪影響を与えかねません。
今回の国会開催と震災対応をめぐる問題を契機として、森友学園と加計学園の両疑惑と関連問題について、自民党と公明党の議員が奮起し、議院内閣制での与党議員の役割をしっかり果たすことを期待したいところです。
<文/田中信一郎>
たなかしんいちろう●千葉商科大学特別客員准教授、博士(政治学)。著書に『
国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/
@TanakaShinsyu