震災対応で問われる安倍政権の危機管理の意思と能力

過去の教訓を無視した政府与党の国会対応

 大きな災害が発生したとき、行政トップはどのように行動すべきなのでしょうか。  もっとも重要なことは、全容を把握できるまで、情報がリアルタイムで入る場所に居続けるということです。それは、一般的に行政機関の災害対策本部室(本部ルーム)を指します。自宅や外にいる場合は、できる限り早くそこに戻ることが原則となります。もちろん、ケースバイケースで判断すべきときもあり、移動中に連絡が途絶しそうな場合や別の被害に巻き込まれそうな場合は、その場所や近くの連絡が取れる場所で、情報を得ることになります。  なぜならば、想定外の出来事により、トップの判断を求められる場合があるためです。トップが適切な判断を下すためには、リアルタイムで情報を得ていなければなりません。特に、人命にかかわる難しい判断の場合、政治家としての責任で判断をする場面もあり得るのです。これは、何でもかんでもトップが判断すべきという意味ではありません。災害対策本部内で、一定の判断を分権することの重要性は、危機管理行政の研究から明らかになっています。  以上のことから、18日の政府与党の対応で問題となるのは、首相や主要閣僚の出席する参院決算委員会を予定通り開催したことです。  閣僚が座る国会の答弁席、それも国会議事堂本館の委員会室は、リアルタイムで刻々と変化する情報を入れるには、まったく適していない場所です。答弁席の閣僚に、情報を入れるには、秘書官がメモを差し入れるしかありません。関係局長と相談したくても、局長たちは閣僚から離れた行政官用の答弁席に座っています。  また、情報を適切に入れることができたとしても、目の前では質疑がやり取りされ、それに集中する必要もあります。自らが答弁者になる可能性もありますし、審議以外のことに閣僚が集中するのも問題です。それでは、いくら情報がタイムリーに入っても、適切な判断を下せません。  そして、超人的な集中力で適切な判断を下したとしても、それを指示するには秘書官を呼び、耳元でささやいて伝える必要があります。秘書官がそれを的確にメモし、外部に伝えなければなりません。YES/NO 程度ならばまだしも、複雑な指示は困難です。  国会審議がこうした環境にあることは、国会議員であれば、誰もが知っています。だから、野党は審議延期を提案したのでしょう。的確な提案で、与党経験が活かされています。  一方、政府与党の対応には、疑問を禁じ得ません。大災害の進行中にもかかわらず、わざわざ情報の入りにくい場所へ、首相と閣僚を送り込んでしまったからです。全容の判明した翌日ならばまだしも、当日の対応としては首を傾げてしまいます。  この場合、結果的な問題の有無は、関係ありません。大災害の全容が把握できるまで、行政トップが情報の得やすい場所にいるということは、これまでの災害から得られた重要な教訓で、トップのなすべき「基本動作」だからです。  結果として、過剰な対応だったとなっても、初動においては構いません。むしろ、過剰でなく「ちょうどいい」対応の結果、初動のミスにつながった例が多くあります。災害対策では、過剰な対応をした結果、「空振りに終わったね」と「不幸中の幸い」となるのが、もっともいいシナリオなのです。
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疑惑の隠ぺいに震災を利用していないか
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