低木は工事のジャマになる「産廃」扱いで、樹木とはみなされていない!?
森に訪れるカワセミは住民運動のシンボルだったが、死骸となって見つかった
住民側は、「中高木251本とそれを含む1万7700本が伐採されてしまう」と訴えている。しかし区長は「森を残す」と言っている。これはどういうことなのか。その真実を知るために、筆者は中野区都市基盤部に取材を申し込んだ。
中野区都市基盤部・千田真史副参事は「中高木以外のツツジなど、低木については本数管理をしていません」と説明する。取り除かれる約1万7450本の低木は工事のジャマとなる「産業廃棄物」扱いだとのこと。中野区では、低木は樹木とみなしていないというのだ。
しかし一方で中野区は、公式広報物には「低木2万2000本」と明記し、公園の「資産」として位置づけている。この矛盾点を指摘すると「ツツジ類も木ではありますが、面積で管理しており、(公式広報物に)本数が記載されている事実は理解できません」(千田副参事)。副参事自ら、区の広報物の記載に異を唱えた。いつからかツツジ類は、区の「資産」から取り除くべき「産廃」に変わったようだ。
「伐るけど植えるのでそんなに減りません」。……本数の問題か?
次に、中高木251本の伐採について聞いてみた。
「251本のほか、219本を伐採(間伐)します。そこへ新木350本を植えるので、結果120本しか減らない計算になります」(千田副参事)
伐採されるのは中高木計470本。この中には樹齢100年を超えると思われるクスノキも含まれる。樹齢の長い470本もの木が伐られれば、森がなくなるのは想像に難くない。今後350本の新木が植えられるというが、森の景観を取り戻すまで数十年は要するだろう。これでは、多種多様な生き物も棲息する場所を失ってしまう。
樹木も生き物だ。それを多数伐採しておいて、「伐るけど植えるからいいでしょ。そのうち育つ」という態度。区長はテレビ番組の取材で「剪定して位置が変わったので、初めは少なく見えるだけ」と答えていたが、この発言からは区民への誠意も感じられない。
「中野区自治基本条例は極めて現代的な条例だが、強制力がない。日本の行政訴訟制度の欠陥だ」と語る、小島延夫弁護士
区民の声を聞かない行政に、自治体としての責任を問えないのだろうか。4月から始まった住民訴訟を担当し、環境や人権に関する法律問題に詳しい小島延夫弁護士に、「自治体の責任」について聞いた。
小島弁護士は「中野区には『自治基本条例』があり、これは日本でも珍しい、住民参加が盛り込まれた画期的な条例です」と語る。
2005年、当時の「地方分権改革」を背景に制定された「中野区自治基本条例」の特徴は、徹底した住民参加だ。「区民が街づくりの主役になることが不可欠」と書かれた前文で始まり、第1章・第3条<区民の権利及び責務>には「企画立案、検討、実施、評価、見直しすべての過程に参加する権利を有する」と、区政へ参加できる区民の権利を定めている。
「この条例を踏まえると、中野区の対応は法的に住民参加の手続きを完全に無視しています」と小島弁護士は断言した。
「ただし、強制力はありません。ドイツや米国で広く認められている住民参加の条文が、日本の都市計画法にはない。訴訟がしにくく、訴訟で是正することも限定的なのが大きな問題点。法制度の欠陥です」
日弁連は2004年に行政訴訟センターを設置して行政チェックの強化に取り組んでいるが、政府も裁判所も消極的だという。
100人以上の住民たちが東京地方裁判所に訪れた。写真は東京地裁近くの日比谷公園で行われた集会
となると、今回の平和の森公園の再開発で唯一問える責任があるとすれば「財務上の価値の減少」。そこで、再開発によって公園の価値が財務会計上いくら減ったのかを証明し、その責任を問うていくという。具体的には、伐採される樹木約250本・3000万円相当の損失や、水辺の絶滅危惧種であるミナミメダカが失われる損失を想定している。
住民訴訟は第1回口頭弁論が今年4月16日に行われ、傍聴席の定員100人を超える住民らが東京地裁に押し寄せた。次回、6月13日の第2回口頭弁論に向けて、小島弁護士は住民ととともに準備を進めている。