サッカーでも同様の話が多い。サッカーの男子日本代表は幸いにしてワールドカップ、オリンピックの連続出場を20年以上も続けている。それは国内の強化が成功しているからだが、「ハード」「経済力」についてそこまでのアドバンテージはなくなっているのが現状だ。
中国の国内総生産(GDP)が日本を抜いたのは2010年のことだが、今や2.5倍の大差がついた。一人当たりで見れば日本は今も中国以上だが、日本は成長力が乏しく、それを支える「お金の流れ」「新しいものへの投資」も弱い。サッカー界のような“虚業”に流れる資本は得てして「成金マネー」「あぶく銭」だが、それは世の中を活気づける程よい潤滑油でもある。日本はダイナミックな「成り上がり」が少ない社会で、中国を筆頭としたアジア諸国には孫正義氏や三木谷浩史氏のような存在がゴロゴロいる。中国のリーグはご存知の通り、Jリーグと比較にならない経営力を持つに至った。
さらに言うと「中国だけ」が台頭しているわけではない。タイ、インドネシアといった東南アジアのリーグも台頭し、払うべき選手に払える資金を持っている。日本人選手のいい「出稼ぎ先」になっていて、Jリーグでプレーしていた時とは比較にならない報酬を得る選手も多いと聞く。
Jリーグにもチャナティップ(札幌)、ティーラシン(広島)といったタイ代表の選手が相次いで来日している。彼らにとって来日はコミュニケーション、スタイルの違いもあって困難も伴うはずだが、実力面ではJ1で問題なく通用している。タイではおそらく日本と同等以上の収入を得ていた彼らがJにチャレンジする背景は、お金以外の「志」だろう。
ヴァンフォーレ甲府は’13年にアンディク・ベルマンサというインドネシアの若手有望選手にオファーを出そうとしたが、金銭的な問題で獲得を断念している。後にマレーシアのクラブが日本円にして3000万円ほどの金額を提示したと聞いた。マレーシアはFIFAの世界ランクを見ると170位前後。リーグもAFCチャンピオンズリーグに出るようなレベルでなく、AFC46連盟の中では下半分だろう。そういうリーグでさえ、3000万円ほどの金額を選手に払っている。バスケも韓国のリーグ(KBL)の平均年俸は日本よりかなり高いと聞く。繰り返しになるが、理由は日本社会の“お金の流れ”が滞っているからだ。
タイのようなワールドカップ出場歴が無い国でも、個を見れば魅力的な人材が何人もいる。インドネシアの育成年代を見たときも、びっくりするような能力の持ち主がいた。コミュニケーション、戦術の「壁」を越えればJリーグで通用する選手も多い。サッカーのようなグローバルスポーツは全世界が本気で取り組んでいて、全世界に人材がいる。中国や韓国だけが日本のライバルというわけではない。幸いにして日本はまだアジアサッカーのトップレベルにいるが、それは限られたリソースを有効活用し、選手もそれなりに育ててきたからだ。