ところで、そもそもなぜJAXAは、SS-520を使って衛星打ち上げに挑戦したのだろうか。
その背景には、近年、電子部品の低コスト化、小型化などにより、数百kgから数kgくらいの、小型・超小型衛星の需要が増加していることがある。かつて日本はこの分野でパイオニア的な位置にあったものの、技術が普遍的なものになるにつれ、海外から勢いで気圧されつつある。
また、こうした小型・超小型衛星を打ち上げることに特化した超小型ロケットは、まだ世界中で開発が進んでいる段階で、日本の企業がシェアを取れる余地が十分にある(参考:『
米ベンチャーの超小型ロケットが打ち上げに成功。宇宙ビジネスがさらに加速へ!』)。
そこで経済産業省が旗振り役となり、民生部品・民生技術を活用し、新しいロケットや衛星を開発する実証実験が行われることになった。この計画は「宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業(民生品を活用した宇宙機器の軌道上実証)」と呼ばれ、民生品を使うことで、従来より低コストかつ、短い納期でロケットや衛星が造れるのではとの狙いがあった。
そして、その委託を受けたJAXAが、SS-520を改造して衛星を打ち上げることになった。民生品を活用という目的どおり、たとえば電子機器には携帯電話などに使われている部品が利用されている。
打ち上げを待つSS-520 5号機 Image Credit: JAXA
また、打ち上げられた超小型衛星「たすき」も、同じく経産省の同事業の委託を受けて、東京大学が開発したものである。ちなみに東京大学は超小型衛星の開発で世界のパイオニアかつ、トップレベルの技術をもち、そこから派生したベンチャーも生まれている。
「たすき」はわずか3kg、手のひらで持てるほどのとても小さな衛星である。それでも、地球を撮影できるカメラを装備している他、地上から送られてくるデータを収集し、一旦衛星の中に貯め、衛星が地上の管制局の上空に差し掛かった際にそのデータを送信する「ストア&フォワード」と呼ばれる中継衛星としての役割ももっている。
ロケット同様、衛星にも民生品が活用され、高い性能を維持したまま、低コスト化、短納期化が図られている。
ちなみに「たすき」とは、ストア&フォワード技術が、駅伝のたすきリレーのようにデータをつなぐように見えること、またさまざまな機関が、駅伝のように一丸となって宇宙を目指すところから名づけられたという。
SS-520 5号機で打ち上げられた「たすき」とほぼ同型の「TRICOM-1」(筆者撮影)