筆者は、アメリカのジャーナリストビザを取得したことがある報道関係者A氏に、この事件について考察してもらった。
「山口氏クラスのメディア人で、もし採用試験をすっ飛ばせるくらいの権力があればビザは難関でもなんでもない。TBSであれば記者クラブも絡んでくるだろうし、ポジションを確保できればビザはおそらく簡単に取れます。
そして、『海外支局に便宜を図ってやる』という旨を言った以上、申請者のビザスポンサーになる義務も発生します。そのため、口約束であってもビザ発給は必ずセットになります。それは、ワシントン支局長だった山口氏も当然知っていたはず。そもそも就職(派遣先のポジション)が決まってもないのにビザの話なんてしませんしね。
そのため、山口氏が『最大の難関はビザだね』といって伊藤氏を誘ったのであれば、最初から下心があったと思われても仕方ないでしょう」
当時、ニューヨークで苦学していた伊藤氏にとっては山口氏の誘い文句を、千載一遇のチャンスと思ってしまったことは想像に難くない。
「彼女自身も彼に会うことで、将来のプラスになると思ったのは間違いないでしょう。ただ、正規の就職ルートではない以上、グレーであるのは確か。著書で『彼と2人きりで会うことになるとは思わなかった』などと書いているようですが、そんなきわどい話を山口さんのような立場の人が酒場で複数人でするとは考えにくい。その点に関しては伊藤さんも浅慮だった印象を否めません」
「『パンツくらいお土産にさせてよ』
山口氏はなだめるような口調の日本語で、
『君のことが本当に好きになっちゃった』
『早くワシントンに連れて行きたい。君は合格だよ』などと答えた。
私はさらに英語で言った。
『それなら、これから一緒に仕事をしようという人間に、なぜこんなことをするのか』」
(伊藤詩織『Black Box』より)
「これから一緒に仕事をしようという人間に、なぜこんなことをするのか」、このやり取りから見ても、伊藤氏は会うだけですでにTBSワシントン支局への内定を得たと思い込んでいたことがわかる。
一方、山口氏は手記で、「ワシントンでの仕事への強い執着」とし、次のように書いている。 山口氏と伊藤氏の最初の出会いは、伊藤氏が働いていたニューヨークのピアノバー(※女性による接待付きのバー)であることが明らかになっているが、
「私がTBSのワシントン支局長であることを知ると、あなたは途端に、『ジャーナリズムの仕事がしたい』と非常に熱心に訴えました。そして、ニューヨークの日本のテレビ局を紹介してほしいと何度も繰り返しました。」
「その後も、あなたは自分の願望を実現するため、私に繰り返しメールを送りつけています。(中略、複数のメール文例示)『現在絶賛就活中なのですが、もしも現在空いているポジションなどがあったら教えていただきたいです。宜しくお願いします! 東京にお戻りの際はぜひお会いできたらうれしいです』」
(「月刊Hanada」P268~P269より)
大学を卒業したばかりの伊藤氏がテレビ局の大物とコネクションを得て舞い上がってしまったことは十分考えられるし、一方で山口氏は就職斡旋するはずの女性と性行為に及んだ上「パンツくらいお土産にさせてよ」「君のことが好きになっちゃったから合格」などと「オヤジのカン違い」をいかんなく発揮している。
いずれにしろ、多くの人が指摘するように、こうした“両者の悲しいカン違い”が事件の出発点だと言えるのではないか。