山口:営業活動をする中で、試行錯誤しながら進歩するモデルを実現したいのでしょうか。
松尾:確かにそういう側面は強いと思います。大学4年で師事した早稲田大学の加藤諦三教授の教えは、まさに試行錯誤による成長でした。間違ったら正す。うまくいったら、さらにうまくいくように工夫する。失敗も成功もたくさん経験し、その都度振り返って次に活かしていくこと。これが成長するためのキーなのだと思っています。
山口:いわば、失敗を是認して、失敗したことにではなく、それを是正したり問題解決したりすることに意義があるという考え方ですね。そのように考える人材開発担当者は多くありません。
松尾:私はこれまで人事部門や人材開発部門ではなく、さまざまな事業や現場でビジネス推進をしてきました。自らの現場での経験から、机上の空論、お仕着せの理論ではない、実践に即役立つプログラムこそ人材開発に効くはず、と考えるようになったんです。
聞き手の山口博氏(左)と松尾氏
山口:松尾さんの手法は、実にダイナミックですね。私は1対1ロープレを反復して、コアスキルであるパーツ話法を定着させる手法をとりがちです。例えば、4つの質問による合意形成、5つの質問によるコーチング実践などです。
それを、松尾さんは、例えば、マネジャーと対象となるメンバー、メンバーに影響を与えるインフルエンサーの同僚2人といった、より現場の実践に近い設定での演習方式をつくりだしておられました。
松尾:いつもの仕事に近いシチュエーションでスキル訓練をしたほうが身につくはず、というごく普通の発想なのかもしれませんね。ロープレの相手役もできるだけたくさんのバリエーションを揃えて効果を高めたのも同じ発想です。
現場の私と、分解スキル反復演習の専門家とでダイアログしながら、プログラム開発することにも手ごたえを感じています。
山口:秋には、サントリー白州工場での分解スキル反復演習プログラムも実施させていただきます。東京から白州工場へ向かう特急あずさの車中で、演習をするという松尾さんのアイデアにも感銘を受けました。
松尾:研修プログラムを作る際に一番大事にしたいことは、メンバーのスキルを上げるだけでなく、そのスキルを定着させるプログラムになっているか、ということです。そのためには移動時間も有効に活用したいと思ったんです。また、日常とは異なる環境だからこそ、さらに高まるスキル、触発されて生まれるアイデアもあるはずです。異なる環境で演習する機会を生かさない手はありません。
分解スキル反復演習に参加したリーダーが、スキル向上のモチベーションをさらに高め、次々とパフォーマンスを高めています。同僚からも変わったといわれるリーダーも増えてきました。研修を受けたもの同士で学んだスキルが共通用語として語られるようにもなりました。現場が変わりつつあることを実感しています。