朝鮮中央テレビが公開した「火星12」型の写真 Image Credit: KCTV
すでに各所で報じられているとおり、今回の火星12は、極端に高い角度(ロフテッド・トラジェクトリィ)で発射されたため、到達高度約2000km、飛距離約800kmという、ミサイルとしてはきわめて特殊な飛び方となった。もし通常の撃ち方で発射していれば、飛距離は4000から5000kmにも達すると推測されている。
今回の飛ばし方からもう少し角度を寝かせれば、在日米軍基地を含む日本全域を狙うことができるが、すでに北朝鮮はノドンやその派生型などで日本を射程に収めており、わざわざ虎の子の火星12を使う理由はない。
しがたって、素直に考えれば、火星12は主にグアムを狙ったミサイルであり、今回の発射は、その威力を見せつける意味合いがあったと思われる。
しかし北朝鮮にとっては、米国と対峙できるだけの核戦力をもつこと、そしてもっていることを見せつけることが最大の目的であり、日本はもとより、グアムを射程に収めることは通過点に過ぎず、あくまで主眼は、米国の本土に核弾頭を撃ち込める大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に置かれていることは間違いない。
では火星12はICBMになるのかといえば、そのままでは難しいだろう。火星12は1段式のミサイルと考えられるが、その上に第2段、第3段を積めば、飛距離を伸ばすことはできる。しかし、その分搭載できる弾頭(ペイロード)の質量が減るため、核弾頭が積めなくなるか、あるいはさらなる小型化をしなければならない。
可能性があるとすれば、エンジンの強化である。以前、
『脅威増す北朝鮮のロケット技術――「新型ロケット・エンジン」の実力を読み解く』で触れたように、昨年9月と今年3月に試験され、そして火星12に装備されていた可能性のあるエンジンは、ソ連のRD-250というエンジンを”半分”にしたものと考えられる。したがって、もとのRD-250と同じ形に戻せば、推力は2倍の80トンにまで増える。これを第1段に使ったミサイルを開発すれば、第2段、第3段とあわせて、重い弾頭をより遠くへ飛ばすことが可能になる。
つまり火星12は、性能上はグアムを狙うことができ、今回の発射もそれを見せつける意味があったものの、それと同時に、新型のエンジンや弾頭の再突入の試験機でもあり、ICBMの開発に向けた布石であるとも考えられなくはない。
はたして北朝鮮は、そのような展開を考えているのだろうか。そもそもムスダンや、ムスダンをもとにしたICBMと考えられるKN-08や14、さらに固体推進剤を使った「北極星」ミサイルなど、他の弾道ミサイルとの開発や運用の兼ね合いがどうなっているのかなど、まだわからない点は多い。
もちろん、その答えが北朝鮮自らの手によって明らかにされる前に、こうしたミサイル開発を含む、北朝鮮をとりまくさまざまな問題に、終止符が打たれることが望ましい。
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter:
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【参考】
・North Korean Ballistic Missile Models | NTI(
http://www.nti.org/analysis/articles/north-korean-ballistic-missile-models/#musudan)
・North Korea’s Latest Missile Test: Advancing towards an Intercontinental Ballistic Missile (ICBM) While Avoiding US Military Action | 38 North: Informed Analysis of North Korea(
http://38north.org/2017/05/jschilling051417/)
・Hwasong-12 | Missile Threat(
https://missilethreat.csis.org/missile/hwasong-12/)
・Missile Threat – CSIS Missile Defense Project(
https://missilethreat.csis.org/missile/musudan/)
・R-27 / SS-N-6 SERB(
http://www.globalsecurity.org/wmd/world/russia/r-27-specs.htm)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
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