北朝鮮、新型ミサイル「火星12」型を発射――その正体と実力を読み解く

朝鮮中央テレビが公開した「火星12」型の写真 Image Credit: KCTV

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は5月14日5時28分ごろ(日本時間)、同国の西部にある亀城(クソン)から、一発の弾道ミサイルを発射した。  米軍や韓国軍、そして自衛隊は、このミサイルが約30分にわたって飛翔し、高度2000kmを超える高さにまで達したのち、発射地点から約800km離れた日本海の公海上に落下したと発表した。  翌15日、北朝鮮は国営メディアを通じ、新型の中・長距離ミサイル「火星12」(ファソン12)型の発射試験に成功と発表。到達高度は2111.5km、飛距離は787kmに達し、この試験によって、新開発の誘導、制御システムやロケット・エンジンの性能や信頼性の実証に成功。また、弾頭部分の大気圏への再突入能力や、核弾頭の起爆システムも実証したとしている。  この火星12は、4月15日に平壌で開催された軍事パレードで初めて存在が明らかになったもので、またおそらく今回が初めての発射でもあったと考えられる。この新型ミサイルの正体と実力、将来への発展の可能性について分析したい。

ムスダンとは異なる新型ミサイルか

「火星12」は一見すると、北朝鮮がこれまでなんども試射をおこなっている「ムスダン」とよく似ている。唯一、大きくはっきりと異なるのは、全長が伸びている点で、そのため、ムスダンの全長を伸ばして推進剤(燃料と酸化剤)の搭載量を増やし、射程を伸ばしたミサイルであると見る向きもある。  ただ、そうすると辻褄が合わない点がある。ムスダンは、かつてソ連で開発された潜水艦発射型のミサイル「R-27」をもとに、全長を伸ばすなどして開発されたミサイルと考えられている。つまりR-27より重くなっており、一方でエンジンはそのままだと考えると、そもそもムスダンは、R-27由来のエンジンで打ち上げられる、ほぼ限界の重さになっている可能性がある。そこへさらに全長を伸ばして推進剤をたくさん積むとなれば、同じエンジンのままでは飛び上がることすら難しくなる。  具体的に数字を出すと、まずR-27は、エンジンの推力は約26~30トンに対し、ミサイル全体の質量は14.2トンであり、つまり自重に対して約2倍の推力がある。ムスダンはR-27よりやや大きく、全体の質量は20トン近くになっていると考えられるが、もしエンジンの推力がそのままであっても、まだ打ち上がらない重さではない。しかし火星12ほどの大きさになると、その質量はおそらく20トンを超えているはずである。  つまり火星12を飛ばすためには、R-27やムスダンのエンジンは使えず、かといって改良で推力を増すのにも限界がある。したがって、より推力の大きな、まったく異なるエンジンが必要になると考えられる。  実際に、北朝鮮が公開した、火星12を後ろから撮影した(ぼかし入りの)写真を見ると、ムスダンとは異なるエンジンを積んでいることがわかる。  ムスダンのエンジンは、メインとなる1基のロケット・エンジンを中心に、その外側に「ヴァーニア」と呼ばれる、姿勢や飛行方向を制御するための小さなエンジンが2基、装備されている。一方で火星12は、メインのエンジンが1基に、ヴァーニアは4基も装備している。ムスダンにあったような安定翼が、火星12ではなくなっているのは、数を増やしたことで、ヴァーニアのみで姿勢や飛行方向の制御ができるようになったためだろう。
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新型エンジン搭載か!?
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