タイでの刑務所暮らしを終えて14年ぶりに帰国した日本人元受刑者を待ち受けていた「現実」
出所が見えてきたとき、竹澤は再びタイで妻と暮らす夢を描いた。あるいはタイに再入国できなければ、隣国のラオスで一緒に暮らしたい。しかし、実際に日本に戻ってきてみれば妻とも離婚になり、生活を立て直す態勢すら取れない。今はブログ「南獄手記番外編」を始め、これまでの体験を綴り、それが誰かに伝わり、なんらかしらの収入に繋がればと思っている。
今、竹澤はかつて加入していた年金制度を利用できるか調べている。恐らく受給可能であると見ている。日本で働いていたときの加入分が生きてきそうなのだ。生活保護を停止して年金で暮らせるかもしれない。年老いたとはいえ、ひとりでタイに行くほどのバイタリティのある男である。もし年金受給が叶えば、わずかな額をより活かせるように物価の安い外国への移住も検討している。
実は竹澤自身も一度ヤーバーを試してみたことがあるという。知り合いのタイ人に喘息に効くといわれたからだ。それがヤーバーとの出会いでもあった。しかし、体質的なものか、あまり効かなかったとこもあり、密輸入して日本での密売に手を染めた。あのとき、気軽に手を出さなければ。自分が自らの手で捨ててしまった妻や母との生活。そして故郷を失い、日本にも居場所がみつからない今。竹澤は自らの過去をこれからも悔やみ、背負い続けなければならない。
<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NaturalNENEAM)写真提供/竹澤恒男>
過去を悔やみ、背負い続ける
(Twitter ID:@NatureNENEAM)
たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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