タイでの刑務所暮らしを終えて14年ぶりに帰国した日本人元受刑者を待ち受けていた「現実」

 航空券を手にした竹澤はフライト当日、空港へと向かった。 「手錠はつけられませんでしたが係官がつきっきりのため、自由になったのは旅客機に乗り込んでからでした。当然、買いものはなにもできません」  出国時には向こう99年間、タイへの入国禁止が言い渡された。実質、タイへの再入国は禁止という措置になる。近年、タイの超過滞在(オーバーステイ)では悪質な場合でも再入国禁止期間は数年程度。刑務所から出てきた場合は扱いが違う。実際、竹澤はオーバーステイに関する罰金は払っていないため、あくまでも犯罪者の強制送還ということになる。

出所して急遽作成された帰国のための渡航書

 刑務所内での商売では一時期100万円くらいの蓄えがあったが、2015年後半から出所直前まで刑務所内の点検も含め、竹澤は房の移動を何度もさせられてしまっていた。タイ人受刑者の違法行為のためだったが、商売もできなくなり、航空券代を引いて残り20万円もない状態で日本に着いた。竹澤が戻ったのは、実家のあった神戸ではなく、栃木県小山市だった。亡くなった母とタイ人妻と暮らした地である。 「親兄弟はいませんし親戚とは音信不通。小山市ならかつての知人もいると思ったからです。しかし、誰も知り合いはいない状況でした」  期待していた知人はもうおらず、身分証も保証人もないため、アパートの契約や携帯電話も手にいれるだけでも苦労した。日本の銀行口座に15000円程残っていたが、それだけだった。2016年に9月に帰国してから現在に至るまで生活保護を受けている。仕事を探すつもりはあるが、年齢的なものと腰痛の悪化でままならない。 「帰国後に妻と国際電話で話していますが、日本には来る気はないようです。近々離婚届けを提出します」
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過去を悔やみ、背負い続ける
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