「時短をしろ」「残業するな」というだけの“改革”では、負担は労働者に
11/22『東京新聞』より 「5人に1人が残業で『精神不調』」
10月末、東京電力社員の一井唯史さんが、福島原発事故の賠償業務でうつ病になり労災申請した。賠償業務という精神的な負担が大きくかかる現場での過剰労働によって、周りの社員たちも続々と休職・退職。さらに仕事の量が増していったという。
今年4月には関西電力の課長職男性が過労自殺した。40年を超えて老朽化した高浜原発1号2号機の延長運転をめぐり、原子力規制委員会の審査対応で激務を極め、1か月の残業が200時間を超えることもあった。しかし、彼は「管理監督者」に当たるので労働基準法で定める労働時間制限は受けない。
経団連と政府はここ数年、ホワイトカラーエグゼンプション(「高度プロフェッショナル制度」「残業代ゼロ制度」とも言われる)の導入を急いでいる。成果主義によって出勤管理をしなくてもいいという制度だ。管理職など年収基準を1075万円以上に設定する案を出しているが、産業界の要請で徐々に400万円代まで引き下げてくることは目に見えている。
働く時間を減らせるというが、実際は逆に労働時間もストレスも増えるだろう。出勤管理がなければ、長時間労動の実態を検証することもできなくなる。過労死が増えても、その証拠を残せないのだ。
そうした政府でも「働き方改革で長時間労働にメスを入れる」と、やっと言い始めた。そのことに誰も異議はない。しかし注視しなければならないことがある。常に右肩上がりの前年対比を要求する経済成長至上主義にメスを入れなければ、何も解決しない。
現場では人件費削減で人が減らされていたり、派遣社員や請負社員が混在して伝達系統が複雑になったりしている。そのうえ「時短をしろ」「残業するな」と号令を掛けても、むしろ隠れ長時間労働や在宅労働の増加に加えて高ストレスに拍車を掛けるだけだ。
現場を適正人数にする、業務量を適正にする、目標を適正にする、などを実行しなければ掛け声だけで終わり、うつや過労死の問題は解決するどころか大きくなるだろう。