信頼していた資産管理担当者の裏切り、そしてガン。一世を風靡した芸術家を襲った不運

 突然ケン・ドーンはそわそわと内線電話をかけ始めた。話の途中で手渡した資料を、息子たちに見せたいのだという。 「インタビューに来る奴は、それ何ですかとか、それ誰ですかとか聞くんだが、きみは逆に私に奴らについて教えてくれたね。よく調べてあるよ。だから息子たちにも教えてあげたいんだ」

ケン・ドーン氏の著書『A Life Coloured In』(ABC Books and HarperCollins Publishers, Australia)

「奴ら」とは、前回報じた記事にあった、ケン・ドーン氏の資産管理トラブルに関与したG氏とW氏のことだ。和解から何年も経ち、事務所の人たちは誰も彼らの行方を知らないのだという。関心がないとも言えるし、知りたくもないし、忘れ去りたいのかも知れない。  資料を見て、ケン・ドーンは「知らなかったよ」といくぶん興奮した様子だった。  いま「奴ら」は、ふつうに会社勤めをしているように見受けられる。  G氏はビクトリア州で某社事務局長として合併・清算などを担当。豪州の法律では、CPAの免許は破産手続き後も保持できる。彼のプロフィールには「過去30年以上、信頼される公認会計士として顧客のために尽くしてきました」と書かれている。  W氏はフィナンシャルプランナーを2005年6月で辞めていた。ケン・ドーンに発覚した直後だ。いまはNSW州でIT系のテクニカルライターとして働いている。  どうして誰も有罪にならないのか? 「資金管理の委任書類に私がサインしていたから。彼らは口座にアクセスし、小切手を書き、資金を払い出す権限を与えられていた。だから何の罪にもならない。有罪は誰もいないんだよ」
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吹っ切れた巨匠
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